地獄からの使者に会って約束したところまで書いたんだっけ。
彼は僕たちのホテルまで迎えに来た。満面の笑みを浮かべていた。ホテルマンは無表情だった。ついてこいと促すので恐る恐るついていった。また昼間散策したヴァラナシのくねくねした道へ入っていった。帰り道を覚えるために我々は必死だったが、もう訳が分からないところまで入り込んでしまっていた。これはひょっとすると拉致か?不吉な想いを抱きながらも30分以上歩いていった。
やっと目的地に着いたようだった。この家に入りなさいと促されるままに我々はそれぞれに覚悟を決めて家に入った。
そこは、コンサートホールではなかった。他の客も一人もいない。目の前に大きなシタールがあるだけだ。椅子を勧められてそこに座って待つこと10分。やがて大きな体をしたおじさんが入ってきた。満面の笑みを浮かべて。
「じゃあ、演奏します」とか何とか言って、地獄からの使者は家の中に入ってしまった。部屋には大きな体のおじさんと我々の3人だけだ。おじさんはおもむろにシタールを手にし、演奏が始まった。始まったら僕の方は、もともと興味があった楽器なのでその音色に引き込まれていった。数曲インドミュージックを楽しんだので、もうそろそろ帰る時間かな、と思っていたが今度は日本の「さくらさくら」などを演奏し始めた。満面の笑みだった。それは別にシタールじゃなくていい、と思ったが我慢して聴いていた。
やっと演奏が終わった。知らないうちに地獄からの使者が来ていて、値段を言った。僕達は言われるがままに料金を支払った(だいぶボラれていたはずだ)。さぁ、帰るぞ、と思って立ち上がったら来たよ。ジュータン攻撃が。シタール買わない?じゃあジュータンは?僕たちはさすがに断った。上客ではないことを悟った使者は、「じゃあ帰りましょうか」と言った。また今度はどこへ連れていかれるのだろう、さっきと道が違わないか?と思いながらついていってが、ちゃんとホテルに連れて行ってくれた。
その夜、妻は発熱した・・・。
続く