やっと列車に乗り込んだ!これでゆっくり眠れる。そう思った僕たちは機嫌が良かった。
僕達は1等席を予約していたのでゆったりできる。フフフ、と思いながら眠りについた。
しかし、1等席で僕らを待っていたのは、強烈な冷気である。エアコンが異常に利きすぎているのだった。二人ともほぼ同時に目を覚まし、「どうなってるん?寒いよ。」「ここ真夏のインドだよな」などと話し合いながらうつらうつらしてまた寒さで目が覚める、という恐ろしい体験をした。何時間この寒さに耐えていただろうか。周りはあまりこの冷気には気にしていないようだ。朝になったので、とにかく何か食べなきゃ、と思い駅弁を買った。この世で一番不味い食べ物だったことをはっきりと記憶している。「不味いってこんなんなんだ」と強く思った。普段味にうるさくない妻も同意見だった。
でも、チャイは美味しかったなぁ。冷え切った僕たちの体を優しく包むような味だった。面白かったのは、現地の人達はその器(素焼き)をポイポイそこら中に投げ捨てて割るのだ。後で調べてみると、土で作ったものは土へ返せばいいという考えだとのことだった。理に適っていると言えば理に適っている。しかし、後日帰国してさらに調べてみると、当時日本のプラスチック製の容器が登場したらしい。そして、インド人はポイポイ捨てる習慣は変わらなかった(らしい)。その結果、大量のプラスチックごみがでたということだった。嘆かわしい。というか噛み合ってないんだよな、同じアジア圏なのに、日本と他の国では生活リズムが全く違う。だから日本のやり方をそのまま持ってきても通用しないんだって。そこら辺は行ってみないと実感できないところだろう。
とにもかくにもヴァラナシには着いた。すごいな俺達、列車で旅したんだぜ、とさっきまでの寒さを忘れたようにはしゃぎながらホテルを探した。実はどこまで安いホテルに泊まることができるのかがこの旅の一つのテーマだったりした。しかし、疲れ切っていた僕達は中級ホテルに決めた。
そして外に出てヴァラナシの町のくねくねと入りくんだ小道をあちこちを散策して回った。だんだんどこがどこだか分からなくなる。地獄からの使者と出会ったのはその時である。「よく来たね!ジャパニーズ?」「ジュータンは?」「〇〇は?」などと五月蠅い。来た!アジアの押し売り攻撃、と思ったが僕は思わず(気がついたら)「アイライクミュージック」と口走ってしまっていた。地獄からの使者は満面の笑みを浮かべ「シタール!グッドミュージック」と獲物をつかんだかのようにまくしたてる。僕達はまぁ、そんな大層なものではないだろうと思い、夕食後にコンサートに行くことを約束した(コンサートだと勝手に思っていた)。
(続く)