以前海外旅行の話を書いたが、その時々でいろいろな人(日本人)に会った。初めてのバリでは同宿していたおじいさんといろいろな話をさせてもらった。最後の夜、市場の食堂で出会った女性とは意気投合し、その後酒場へ行きしこたま飲んだ。インドのホテルでチェックインに困っていた女性には偉そうに助けてあげた。その後図々しくもその女性は僕の部屋に入り込み、深夜までチャラい話をした(何も変なことはしませんでしたよ)。ベトナムでは、後に小説家になる女性(女性ばかりだ)とホテルをシェアした。タイでは、保育園に勤める女子2人としこたま飲んだ。思えば現地の人も含めていろいろな人と出会っている。
ベトナムの話を書こう。僕の3回目の海外旅行先である。なぜベトナムに行こうと決めたのかは今となっては思い出せない。
とにかくホーチミンについた僕は、例によって町をうろついていた。しかし、1日目からこんな調子じゃあ煮詰まるぞと思い、考えた末にメコン川を見に行こう、と決めた。メコンクルーズに申し込み、勇んで船に乗ったのだがその日は風が強くてしかも雨が降ってきた。「今、雨季なのかよ」と思いながら我慢していたが、次第に寒くなってきた。東南アジアで風邪ひくのか、というくらい、いや、身の危険を感じるくらいの寒さだった。どうすればいい?必死に考えた僕は、息を深く吸い込んでまたゆっくり吐く、という深呼吸をすれば体の熱が保たれるのではないかと思ってそれを実行していたが、あまり効果がない。しかし、ここで死ぬわけには勿論いかないので、何とか頑張って目的地まで持ちこたえることができた(現地の人は平気な顔をしていた)。
急いでホテルを探し、ゆっくりシャワーを浴びてやっと一息ついた僕は、ホテルを出てその前にある広場のようなところでぼうっと、メコン川を見つめていた。そしてふと振り向いてホテルを見ると、誰かが手を振っている。僕が手を振り返すと、「こんにちは!そっち行っていい?」と言うではないか。僕としては精一杯の笑顔で頷いた後、しばらくして彼女が下りてきた。
「さっき着いたの?」「はい」「私も。寒かったね」「死ぬかと思いました」どう見ても僕より年上だ。「私、過呼吸するみたいにハアハア息をして何とかしのいでいたよ。」なんだ。俺のしていたことは逆だったのか。「ねえ。よかったら夕食、ご一緒しない?連れもいるんだけど」と言ってくれたので喜んで、と答えた。
(続く)