ホテルに着いた。手続きを済ませた。にもかかわらず帰りの飛行機のチケットを見せろと言う。疲れていた僕はそれでも警戒していた。説明を求めると(「パードン?」と言っただけだが)、どうやら「リコンファーム」と言っているように聞こえた。そう言えば「地球の歩き方」に書いてあったぞ。「リコンファーム」は絶対するように、と。それをこの人に託してもいいのか?しかし疲れていた僕はもういいや、と思いチケットを渡した。こうしてやっと部屋に入ることができた。
次の朝、何をしていいのか分からなかったので、取り敢えずビーチに行った。白人が砂浜に寝そべっている。トップレスの人もいた。僕も敷物をひいて寝そべった。ウォークマン(知ってる?)を取り出して音楽を聴いてぼうっとしていた。
あとはTシャツを買ったり、通りがかりの白人女性と少し喋ったり、通りで大麻を売りつけられたり(勿論断った)して2日が過ぎた。そして「これはいかん、場所を移動しよう」と思った。ホテルの予約も明日までだ。「地球の歩き方」の登場だ。僕は隣のクタビーチよりほんの少し高級感がある隣のレギャンビーチへの移動を決めた。
そしてホテルが用意してくれたタクシーでレギャンへ行った。そこはやっぱりただのビーチだった。「地球の歩き方」で適当に見繕っていたホテルにチェックインして、海へ行った僕は「変わらない」と思った。「何かせねば」とも思った。そこで僕がしたことは、「ロッキングオン」の原稿を書くことだった。プロレスと日本のロックミュージシャンを関連付けて書くつもりだった。プロレスはその時ブイブイ言わせ始めた全日本プロレスの三沢光晴のエルボー(という技)、ミュージシャンは、ルースターズ、ストリート・スライダーズ、ニューエスト・モデルの歌詞についてだった(今と変わらない・・・)。
どちらもすごいということ、しかし歌詞については言いたいことがあるぞ、ということを書こうとしたのだがなかなか上手くいかなかった。でも、ホテルの中庭でのんびり文章を考えるのは楽しかった。飽きると、海外旅行を勧めてくれた先生に絵葉書を書いた。
そんなこんなでのんびり過ごしてはいたが、やはりビーチにずっといてもダメだ、と思った僕が頼りにするものはやはり「地球の歩き方」だった。「ウブド」(後で現地では「ウブ」と発音することを知った)という内陸部にある町が気になった。バリダンスがあるという。ガムランという音楽があるという。ヒンドゥーの聖地らしい。ここへ行きたい、と思った僕は何とかウブドへ行くツアーを探し出し、小型バスに乗って一路ウブドを目指すことになった。
ウブドへの小型バスは順調に向かったとは言えなかった。途中途中でお土産屋さんに停まる。そして僕たちも下ろされて土産を買わされる。別に買わなくてもよかったけど、つい買ってしまうんだなあ、これが。初めての海外旅行だとそんなもんだろう。そんなこんなでやっと目的地に着いた。いつものように「地球の歩き方」でホテルの目星をある程度つけていた僕は、そのホテルを探した。結構歩いたと思うが、当時の僕は20代半ばで元気一杯だった。
そのホテルはかつて坂本龍一も泊ったことがあるという。恐る恐る行くと、ホテルのスタッフがにこやかに出迎えてくれた(今思うと「カモが来た」と思ったのだろう、きっと)。竹を基調とした部屋でなかなか素敵だった。気に入った僕はここにしばらく泊まろうと思い、「スリーデイズ、OK?」と聞いてみたら、「大丈夫」だと返ってきた。
その時の僕はウブドに長逗留することになるとは思いもしなかった。