ザ・リンダ・リンダズ(若者達)と佐野元春(おじさん)

僕は浮気者である。節操がない奴と言ってもいい。先日はザ・フーについてあれだけ熱く語っていたのに、今日は別のバンドについて書こうとしている。前にちょろっと書いたザ・リンダ・リンダズ、かっこいいんだよな。何と言っても若い。そして痛快だ。若者がやる痛快な音楽と言うと、これはやはりパンクになる。まあ、ゴリゴリのパンクではないけどね。

 

バンド名は、日本の映画「リンダ リンダ リンダ」から、もしくはその映画を作るきっかけとなった日本のバンド、ザ・ブルー・ハーツの「リンダ リンダ」からつけられたものであるということは自明である。そのまんまである。ザ・ブルー・ハーツ好きの僕としても嬉しいことである。

 

メンバーは全員アジア系およびラテン系アメリカ人の女子。10代の女の子に夢中になるなんておじさん(僕)は思ってもみなかった。ロッキングオン5月号のディスクレビューを読んで「どれどれ」と検索して聴いてみたところ、1曲目「Oh!」で心を鷲掴みにされた。アルバムは僕の好きなタイプの10曲26分である。

 

世界中で大騒ぎになるきっかけとなったのが、アメリカでLA図書館からのライヴ映像らしい。クラスの男子から人種差別的行動をされたことをきっかけとして「Racist , Sexist Boy」という曲(アルバム最終曲)が生まれた。メンバーのEloiseがこう語っている。「そいつ(差別をした少年)と世界中の人種差別で女性差別の男子に向けて書いた」と。歌詞はこうである。「人種差別、女性差別、男子 私たちは、あなたが破壊するものを再構築する」。かっこいいじゃないか。そして女子はいつだって正しいのだ。この曲だけはゴリゴリパンクである。

 

演奏、ヴォーカル、コーラスなど、ガールズバンドはかくあるべし、という要素を全て持っている。ヴォーカルが気に入ったのはもちろんだが、僕が特に気に入ったのはベースだ。2曲目「Growing Up」はそのベースのかっこよさがよく分かる。曲調に新しさは感じられないが、この瑞々しさはどこから来るのだろう。うーん、きっと初めてやった音楽スタイルがパンクだったということが大きいのかもしれない。パンクはやったもん勝ちな気がする。そして若けりゃ若い程いい。注文をつけるとしたら、もっとあざとく、もうザ・ブルー・ハーツっぽくやっちゃってもいいかもしれないな、と思った。どんどん新作をリリースしてほしいバンドである。

 

 

 

次はガラッと趣も変わって佐野元春&ザ・コヨーテ・バンドである。おじさん6人組だ。おじさん達は4月8日に「ENTERTAINMENT!」というアルバムを届けてくれた。このアルバムも10曲34分とコンパクトである。素晴らしい。本作では2019年から2021年にかけて配信リリースした5曲(「愛が分母」「この道」「ENTERTAINMENT!」「合言葉」「街空ハ高ク晴レテ」)に新曲5曲を加えた内容となっている。

 

新曲では「東京に雨が降っている」「悲しい話」など、コロナ禍の人々をスケッチした曲が並び、同じ時代を生きる人達に向けた内容になっている。

 

「東京に雨が降っている」では、「ずいぶん遠くに来てしまった/昨日までの自分/明日からの自分/全ては夢のよう/この雨の向こう/濡れた街を歩いて行こう」「世界中に雨が降っている/しばらくは止みそうにないよ」とほぼ全世代に通じる言葉を投げかけている。

 

「悲しい話」は、まずイントロが素晴らしい。暗くて重いが何かが始まる予感がするイントロである。そして「悲しい話はもうたくさんだ/仕事が無くても心を持とう/心がないならどこへ行こう/でたらめな話はもうたくさんだ」とぶっきらぼうに歌う。歌の間に入るギターもぶっきらぼうでギザギザしている。最後に佐野は「これから先が心配なんだよ/みんなはいったいどこへいくんだろ/こみいった話はあとでしよう/待ち合わせならいつものとこでいいよ」とこれもほぼ全世代の人々に通じる言葉で締めてこの歌は終わる。

 

次の曲「少年は知っている」は「ボーイズ今すぐにジャンプ/心配しないで大丈夫だよ/好きなだけ世界を貪って/この夜の息の根を止めてやれ」というサビに僕の心はやられた。「君は平気で噓をついて/勝手な都合で不貞腐れている/時々無謀な夢企んで/巧みな言い訳探してる/君は残酷な弓を弾いて/自分の国旗を掲げてる/その心のどこかにいばらを抱いて/暗がりの中で踊っている」。「君」という少年は誰のことを指しているのだろう。それとも特定の誰かの事ではなくて、誰もが心のどこかに持っているものなのだろうか。

 

と考えているうちに最後の曲だ。僕はこの曲がアルバムのベストだと思っている。「いばらの道」というタイトルだ。さっきの曲にも「いばら」という言葉が遣われていた。「いばらの道 静かな道/ここはいつか来た道/一人になって朝が来れば/涙の後も消えてゆくよ/夜明けを待って勇気を出せば/悲しいことも忘れるよ」と佐野は優しく語りかける。どんなに現状が厳しくても昔から佐野元春は必ず最後に希望を歌う。それがちっとも能天気に聴こえないのは、これまた昔から佐野元春の現状認識が正確だからであると僕は思っている。

 

 

ザ・リンダ・リンダズと佐野元春の両者を聴くという行為はなかなかいいバランスだと思う。