♪オー どうぞ勝手に降ってくれ ポシャるまで
♪ウー いつまで続くのか 見せてもらうさ
ここまで歌詞とメロディは決まった。しばらくああだこうだやってみて、オレが何気なくGAとコードカッティングすると、キヨシは、
「チャボ、それいいじゃん!それ使おうぜ。♪見せてもらうさ~の後にGA。その後、その後!」
キヨシは高ぶった表情でオレを見ている。オレは、ギターを持ったまま考えた。これでどうだろう、と思えた時にジャジャ、ジャジャ、ジャジャ、ジャジャ、ジャジャーン、ジャッ、ジャッと弾いてみた。DAGADGAだ。
すぐにキヨシはメロディを探り出した。そしてその上に歌詞をのせていく。ここら辺の手際の良さはさすがだ。オレなんかこんなに早くはできないな。「お前に乗れないなんて」「発車できないなんて」とどこまでもセクシャルにキヨシは言葉を紡ぎ出す。完璧だ。その後も、車のどの部品が歌詞に使えるかいろいろ話し合った。「マフラー」「ワイパー」「ライト」等々。「ラジオ」が使えるとキヨシが言ったところで、一服することにした。サビはこんな歌詞になった。見事にギターのカッティングにのった歌詞とメロディだった。
♪こんな夜に おまえに乗れないなんて
♪こんな夜に 発車できないなんて
すると、ちょうどヒサコが仕事から帰ってきた。興奮しているオレ達の表情を見て、クスクス笑った。
「今日は何だか二人とも気合いが入ってるわねえ。」
「今コーヒー入れてくるね。その後聴かせて。」
そう言うと2階へ上がっていった。
1回サビまで通してそうっと小さな声で歌ってみてから、ヒサコが来るのを待った。キヨシは、「次は本気で歌ってみる。」と言って歌詞が書いてある紙を見ながら小さく口ずさんでいた。
ヒサコがコーヒーを持って降りてきた。
「まだ、1番までなんだけど。」と言って二人で演奏した。聴いた後ヒサコは、パチパチと拍手をし、「キヨシ君もチャボも最高。」「キヨシ君、歌い方変えたのね。私は好きだな、その歌い方。それにチャボは最近ずっとこのリフを弾いていたんだよ。ついに完成したのね」
と言ってくれた。リフを考えてたことまでばらすんじゃないよ、と思ったがまぁいいか。
「じゃあ、完成を楽しみにしてるね」
と言い、また仕事に戻った。彼女は売れっ子の写真家のアシスタントなのだ。そしてオレは、新聞紙を上手く紐でしばることができなくて1日でアルバイトをやめてしまった社会生活不適合者の憐れなギタリストだ。でも今はキヨシ達と一緒にRCをドライブさせていこうと決めた立派な大人だぜ。
それにしても「本気で歌ってみる」と言って歌ったキヨシの歌い方には、こっちもブッ飛んでしまった。オレが感じたことは二つある。まず、過剰なまでにはっきりとした発音で区切って歌うところ。今までもはっきりとした歌い方をする、つまり歌詞が聴く人に届く歌い方をするキヨシだったが今回はそれ以上だ。スタッカートかよ、って思うほどのところもある。この歌い方だとさらに歌詞がはっきりと聴き取ることができる。もう一つはアクセントだ。「バッテリーは」の「バ」や「ブッ飛ばそうぜ」の「ブ」と「ぜ」などはオーティスになってアクセントをつけているのが気持ちいい。それに「どうしたんだ ヘイヘイベイビー」はキヨシだからこそ格好よく歌えているのだ。他のヤツだったらダサく聴こえると思う。
タイトルは、次の日に決まった。「雨あがりの夜空に」。歌詞にも出てくる言葉だが、いつまでも雨が降っていてもさえないしな、とか何とか言いながら決めた。でも何だかロックっぽくないっちゃあないよなぁ、と思っていたんだけれども、「雨あがりの空に輝く 雲の切れ間にちりばめたダイヤモンド」と歌うのを聴いて、あぁ、やっぱりキヨシだ、キヨシの書く歌詞は何も変わっちゃいないと思った。変えているのは見せ方だ。オレ達が仲良くなり始めた当時の心を今も持っているキヨシは、ゴキゲンなロックンロールにのせて自分の全部を伝えようとしているんだ。最後はもう全面的にキヨシにまかせた。こんな歌詞だ。「雨あがりの夜空に吹く風が 早く来いよと俺たちを呼んでる」。まるで今のオレ達のようじゃないか。キヨシ、お前は確かにさだまさしや松山千春のような気の利いた歌詞は書けない、書くつもりもないだろう。でもあいつらもこんな歌詞は書けないぞ。お前にしか書けない歌詞をRCのサウンドにのせて歌う忌野清志郎、想像しただけで興奮するぜ。
こうして「雨あがりの夜空に」は完成した。あとはRCでどんなサウンドを作っていくかだ。何度もスタジオに入り、キヨシの言うゴキゲンなロックナンバーが仕上がった。この頃にはもうキヨシは、ギターを持たずにマイクだけ持って歌うようになっていた。
(続く)