hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

キヨシとオレ その④

レコーディングは無事終わった。歌詞を変更しろとぬかすヤツがいて揉めたりもしたが、とにもかくにも後はリリースを待つだけだ。

そして今日は、練習の日だ。スタジオに入ると、キヨシもいた。たまげたのはその髪型だ。ディップをベタベタ塗りつけて髪の毛が全部逆立っている。後ろの髪もだ。

 

「キヨシ、何だよ、その髪」

「どう?いかすだろ?」

うーん・・・。そうかなぁ。オレの心の中の声を聞いたのか、キヨシは

「この髪型で客をイカクするんだよ」

そう、いう、見方もあるか・・・

またしてもオレの心の中の声を聞いたのか、キヨシは

「チャボも髪型変えたら?」

ときたもんだ。パンクロックでもあれだけ髪を立てないぞ。でも見ているうちにこれが今の忌野清志郞的ヘアスタイルだと思えるようになるから不思議なもんだ。

 

この日はそれに加えてもう一つ驚いたことがあった。

キヨシがジャンプして踊りながら歌っているのである。つまりステージアクションを考えているのである。スタジオは狭いので動きは限られてしまうが、どうもミック・ジャガーを意識しているようだ。「ステップ」のオーティスのことを思い出した。やはりキヨシの動きは、英語表記のMick Jaggerではなくて、カタカナのミック・ジャガーなのだ。そしてそれは、やはり今の忌野清志郎的アクションになっているのを感じずにいられなかった。つまりは格好いいってことだ。

 

オレは、最近のキヨシの変化に言葉にならないものを感じていたが、今日はっきり言語化することができた。今あいつがやっていることは、マンガの実写版だ。きっとあいつは取り込みたいものを頭の中で(あるいは実際に紙に)、マンガにして描いているはずだ。一度マンガに置き換えて取り込み、それを現実の世界でやってみる、という作業をしているんじゃないだろうか。最初の頃、そのロックスターは、オーティスのように歌う。吹き出しには、「ガッタガッタ」とカタカナで書いてある。また、ロックスターの絵の横には、「忌野清志郎」ではなく「キヨシロー」と書いてあるに違いない。そして、「キヨシロー」の姿は最近更新されて、ミックのように飛び跳ねるマンガになって、髪の毛はツンツンに立っているはずだ。

 

いや、馬鹿にして言っているんじゃない。歌い方も髪型もステージアクションも全部マンガの中のロックスター、「キヨシロー」がやっていることなんだ。それをキヨシが実写化しているのだ。実写版で見ると最初は笑っちゃうかもしれない。だってこんなの見たことないんだもん。でも見れば見るほど格好よく見えてくる。思えばビートルズストーンズも最初は嘲笑されていたじゃないか。ホントに格好いいものは、最初は笑われる。そのあとに熱狂が来る。もしかしてこれは真理なんじゃないか?これは、これこそがキヨシが「売れる」ために考え出した「発明」なのだ。

 

オレは、キヨシの本気を感じた。やつはロックスター「キヨシロー」を作るために他から何かを「取り込む」決心をしたのだ。あれほどオリジナルに拘っていたキヨシが売れるために誰かの何かを取り込む、これは並大抵の気持ちではできないことだ。その結果がマンガ実写版で、しかも格好いいというところがキヨシらしい。「取り込む」というと、どうしても批評性が垣間見えたり、ある種の照れが出てきたりするものだ。それをキヨシは軽々と跳び越えてしまっている。これはすごいことになりそうだぞ。何かが起ころうとしているのをオレは練習しながら感じざるを得なかった。それにしても、あの内気なキヨシがこうなるとはなぁ。

 

 

・・・今日はこれか。なるほど。オレはもうちょっとやそっとのことでは驚かなくなっている。

 

「ウー、イエー、今日はこんなに集まってくれてどうもありがとう、感謝します。イエー!」

「ドシドシ熱いラブソングをお贈りするぜ。」

とかいろいろなMCを織り交ぜながら歌ってる。

「イエー、のってるか~い。」

などの陳腐な煽りでは、勿論ない。これは、ロックスター「キヨシロー」が客にお届けする大真面目なマンガMCなのだ。例によってセリフにはカタカナが多い。それに「感謝」っていう言葉遣いも新鮮でいい感じだ。

 

「雨あがりの夜空に」を演奏するときには、ドラムのコーちゃんに

「しばらくべードラの4つ打ちを続けててくれる?」

と言うと、ベードラにのせてキヨシはこんな風に喋り出す。

「ウー、イエー、今日はサイゴまでこんなに盛り上がってくれてドーモありがとう、感謝します、イエー。じゃあサイゴに、ウー、雨あがりの夜空に」としゃべって、オレに目で合図をした。

 

オレはあわてて「雨あがりの夜空に」のイントロを弾き始めたが、心の中ではやっぱり今日も驚きの日だったな、と思いながら演奏していた。演奏が終わると、キヨシはもう1回やろうと言い出した。オレ達に異存はなかった。RCは練習好きなバンドなのだ。そしてやればやるほど演奏がタイトになっていく。

 

コーちゃんの4つ打ちが始まり、キヨシがしゃべり出した。俺がタイミングを図っていると「雨上がりの夜空に、オッケー、チャボ!アー!」と入れてきた。さっきより慌ててイントロを弾き出したが、タイミングがどうもオレの中ではピタっとこなかったので、演奏をストップしてもらった。いつもはほとんど曲の最初から最後まで演奏するバンドだから申し訳ない気持ちで一杯だったが、

「キヨシ、悪いけどもう1回やってくれる?」

と頼んだ。

 

今度は上手くいった。うん、この感じだ。いいぞ。キヨシも他のメンバーも納得の表情をしている。しかし、最後に「オッケー、チャボ!」か。あいつの反射神経はどんどん研ぎ澄まされていっている。いや、昔からコンサートでは客を罵倒してたから、これくらいどうってことないのかな。このMCも家で研究してきたに違いない。どうリズムにのせるか、アクセントはどこにつけるか夜中に考え練習してきたのだ。ついにはMCまでカタカナに聞こえるようになった。歌の方は「ガッタガッタ感じる」など、これまたカタカナに聞こえる部分が増えた日だった。

 

 

 

                                      (続く)