むしろカッコよく聴こえたぞ、プリンスは。
初めて聴いたのは「1999」(1982)。高3だった僕は、雑誌か何かでの評判を聞いて、貸しレコード屋で借りた。1曲目から「1999」「リトル・レッド・コルベット」「デリリアス」という必殺の曲3連発にノックアウトされた。
僕のプリンス歴は聴いた順に並べるとこんな風になる。
「1999」(1982)→「パレード」(1986)→「ラブセクシー」(1988)→「ダイヤモンド&パールズ」(1991)→「サイン・オブ・ザ・タイムス」(1987)→「バットマン」(1989)→「ブラックアルバム」(1994)→「3121」(2006)
おい、「パープル・レイン」がないじゃないかと言われそうだが、そうなのだ。「パープル・レイン」は買っていない。いろいろなところから聴こえてはきたんだけどね。だから「When doves cry」が超名曲だということは分かっていた。けれど、周りが騒ぐもんだから、あえて聴かなかったところがあった。
そして「バットマン」以後からあまりプリンスの新譜を聴かなくなる。「パレード」と「サイン・オブ・ザ・タイムス」があれば十分だと考えたからだ。「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」(1985)も聴いていなかった。ヒット曲(「ラズベリー・ベレー」)は聴こえてきたけどね。
それがプリンスの死後、急に聴くようになった。原因は2つあって、1つ目はアップルミュージックのおかげで容易に曲を聴くことができるようになったこと。2つ目はちょうど、僕史上初の「ブラック・ミュージック期」に入っていたことである。スティービー・ワンダー、マービン・ゲイ、テンプテーションズ、カーティス・メイフィールドをはじめとする大物ミュージシャンからアップルミュージックで紹介されるよく分からないミュージシャンを聴いていた。
聴いてみて分かったことだが、ブラック・ミュージックが一番映えるのはベッドの中で過ごす時間だということだ。2人でベッドにいる時の落ち着いた時間やそうじゃない時間に最も映える、というかそれを目的にして作ったんじゃないかと思うくらいである。
プリンスの歌詞も思えばセクシーだ。過激だとも言っていい。そしてブラック・ミュージック期に入っていた僕の耳でも十分満足できるような作品ばかりだった。しかし、「パープル・レイン」は聴いていなかった。昨年JUNさんのコメントに登場したので少し聴こうかなと言う気持ちはあったのだけれど。
しかしついにフルで聴くことになった。
きっかけは、西寺郷太著「プリンス論」を読んだからである。
西寺郷太は、ノーナ・リーヴスというバンドのシンガー&メイン・ソングライターである。彼はマイケル・ジャクソン、ジョージ・マイケル、プリンスの熱狂的なファンでついには本を出版するようになった。現在47歳だから、少年時代に3人を聴いたことになるのかな。マイケルについての著作が多く、「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」(2009)、「マイケル・ジャクソン」(2010)等が出版されている。
「プリンス論」は2015年に出版された。これは、プリンスの「1999」のスーパー・デラックス・エディションがリリースされたことに伴い、水道橋博士のメールマガジンに連載されたものをまとめた本である。
最初に執筆を依頼された時は、彼は困っていろいろと編集者に言うのだが、熱意に押されて書く事を了承した。書き終えた彼は「はじめに」でこう書いている。
書き終えた今、あらためてこう思う。
もしも「プリンスの楽曲を1曲も知らない」という人がいたならば、その人は幸運だと。「ポップ・ミュージック史上最高の天才」の魔法を、この瞬間、ゼロから体感できるのだからー。
内容はアルバムごとに時系列で書かれていてとても分かりやすい。何より著者のプリンスに対する愛情が伝わってくる。ミュージシャンだけど、文章も上手い、という人はたくさんいるけれど彼も間違いなくその一人だ。
つまり、初心者の僕でも音楽的なことが分かるようにかみくだいて説明してくれるのだ。知っていることも書いてあるが、楽曲については知らないことの方が、そして驚くことの方が多かった。
例えば、2大ヒット曲の「When doves cry」と「Kiss」との共通点やBPM、発声法についての話が蘊蓄好きの僕にはとても興味深かった。
この2曲には、ベースが入っていない。黒人音楽の「肝」と言ってもいいくらいのベースが入っていないのだ。「ベースがない方がクールでいい」とプリンスは言い、ベーストラックを全部抜いたそうだ。こんなアヴァンギャルドな曲が世界中で大ヒットしたことの驚きが書かれている。
もう一つのBPMについては、「BPM高速化大作戦」を敢行したことが書かれている(BPMとは1分間に何回拍を数えるかを示す速さの基準)。今までのディスコ・ミュージックやマイケルの楽曲はBPMは110から120前後に集中しているらしい。それに比べると「レッツ・ゴー・クレイジー」はBPM197だという。しかも「パープル・レイン」に収録された曲はBPMの幅が広い。ロックを聴くなどいろいろな層でヒットさせるためにはBPMを高速化すべし、という戦略だったらしい。
また、発声法についても西寺郷太は言及している。初期はほとんどがファルセットで歌われていた。しかしそれをコンサートで再現するのは難しい。そこで「パープル・レイン」では、地声でシャウトする唱法にシフトチェンジした。この「作戦」も見事に「当たった」。
というわけでこれはもう聴かねばなるまい、と思い聴いたよ、「パープル・レイン」。レコードだとB面になるのかな?が素晴らしい。特に「I Would Die 4 U」から「Baby I’m a Star」のつなぎが素晴らしい。そしてタイトル曲。これをしみじみ聴いたのは初めてだけどいいですな。もう世界中の人が知ってるか。
というわけでプリンスでした。こんなにプリンスについて書いたの初めてだな。
改めて「パープル・レイン」(1984)、「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」(1985)、「パレード」(1986)、「サイン・オブ・ザ・タイムス」(1987)の4年間のジャンプアップの仕方は凄い。
最後に忘れていた。「アラウンド・ザ・ワールド・イン・ア・デイ」(1985)で表したかったのはドアーズやマーク・ボランの世界観だったのではないかと西寺は語っている。どうです?JUNさん。