ドヤ顔で歌う佐野元春

今日は、佐野元春の「カフェ・ボヘミア」を聴いている。この作品は、1986年12月に発表された5枚目のアルバムである。佐野のバックバンド「ザ・ハートランド」は、このアルバムから「佐野元春 WITH THE HEARTLAD」名義でクレジットされるようになった。

 

まず、記事のタイトルなんだけど、このアルバムを聴いていると佐野元春のドヤ顔が見えてくるんだよね。「これでどう?きっとみんな気に入ってくれると思うぜ!」という気迫に満ち溢れているように聴こえるのだ。声の圧もすごい。

 

 

勿論佐野は、デビュー当時から自信満々だったと思う。1980年のデビューアルバム「BACK TO THE STREET」、1981年のセカンドアルバム「Herat Beat」では、「アンジェリーナ」「ガラスのジェネレーション」という曲を生み出し、各地で熱狂的なライヴを繰り広げた。

 

 

しかし、レコードセールスには今一つ繋がらず、サードアルバムで勝負をかけた。セルフプロデュースをして「このアルバムが売れなければ、活動をやめよう」とまで思ったらしい。その結果出来たのが「SOMEDAY」(1982)である。そして佐野は勝負に勝った。オリコンで最高4位を記録することになるのだ。ここまで(1983年のベストアルバム発表まで)が佐野元春第1期だと僕は思っている。

 

 

その後、佐野はどうしたのか?ご存じの方も多いと思うが、何を思ったかニューヨークに行っちゃうのだ。それも1年間。そしてニューヨーク滞在で得た刺激を基にアルバムを制作する。「VISITORS」(1984)である。

 

 

勿論ファンからは待ちに待った佐野元春のアルバムということで注目された。しかし、まだ日本でも浸透していなかったラップやヒップホップの手法が楽曲に取り入れられ、佐野の歌いっぷりも変わった。リスナーは戸惑い賛否両論を巻き起こす問題作となる。それでもオリコン2週連続1位を記録する。

 

 

佐野はインタビューで、「コンサートでは、むっちゃ盛り上がると思った。みんなこのアルバムを歓迎してくれると思っていた。でもそうではなかった。だからショックのあまり、その後上手く話せなくなった」と話している(僕の記憶では)。

 

 

まあ、評論家やミュージシャンからの受けはよかったんだけどね。僕はリアルタイムでは聴かなかったし、それまでチェックしていた佐野のラジオ番組(NHKの「サウンドストリート」)も聞かなくなっていた。

 

 

僕がホントに「佐野元春、いいじゃん!」って思ったのは、「カフェ・ボヘミア」の次の作品である「ナポレオンフィッシュと泳ぐ日」(1989)からだった。大学の友達に熱狂的な佐野のファンがいて、リアルタイムで「カフェ・ボヘミア」を聴かされたけれど、当時はピンとこなかった。

 

 

ナポレオンフィッシュ~」から佐野の作品をじっくり聴くようになって、「カフェ・ボヘミア、いいじゃん」となったのだから、やれやれである。

 

 

さあ、字数もそろそろ迫ってきたから、「カフェ・ボヘミア」についてもう少し書いてみよう。

 

 

このアルバムを発表する前に、佐野はシングルを数枚発表している。まずは1985年「Young Bloods」である。これはどちらかというと「VISITORS」寄りの作品だったが、国際青少年年のテーマソングに使用されたので、最高位は7位と佐野にとって初のトップ10作品となった。

 

 

次に「リアルな現実 本気の現実」を出して(これについての言及は省く)、「CHRISTMAS TIME IN BLUE」(こっちは大事。「カフェ・ボヘミア」にも収録されている)を同年11月に発表する。翌年(1986年)は5月7月9月にシングル3曲を連続して発表する。

 

 

これが「カフェ・ボヘミア」のトーンを決定づけるものになったと思われる。どの曲も「VISITORS」のような先鋭的なものではなく、メロディ重視?みたいな曲となっている。きっと佐野は最初に書いたように「これならどうかな?受け入れてもらえると思うんだけど」とリスナーを試してみたんだと思う。

 

 

手応えを感じた佐野はそのままアルバム制作に突入して12月に発表する。オリコン最高2位を記録。大成功である。

 

 

このアルバムは今聴いても素敵だ。いろいろ書きたいことがあるんだけど、(「おいおい、スタイル・カウンシルかよ」とか「CHRISTMAS TIME IN BLUE」の後半の歌詞についてとか)一番書き留めておきたいのは歌詞についてだ。勿論今までの佐野作品も歌詞に拘り抜いて作られていたが、うーん・・・そうだなあ。例えばインナースリーブの歌詞が印刷されているんだけど、こういうのなんだよね。

      

     ↓↓↓↓分かるかな?文章みたいにズラズラと横書きしているでしょ?

こういう印刷の仕方をしたのは佐野元春が初めてではなかろうか(いつものように間違っていたらごめん)。これは、上手く言えないが「歌詞を読んでくれ」と言う佐野元春のリスナーに向けたメッセージじゃないかと僕は思っている。そして力強い言葉がたくさん散りばめられている。

 

 

例えば「99ブルース」では「平和もない/静けさもない/笑いとばせるほど無邪気じゃない/いつも本当に欲しいものが/手に入れられない」と厳しい現状認識が歌われている。今までの佐野作品には見られなかった(と思われる)フレーズだ。この後も「得意げな顔した/この街のリーダー/シナリオのチェックに忙しい/ユーモアもない/真実もない/フェイクしたスマイルはとても淋しい」と、今でも通用するような言葉が並んでいる。

 

 

 

こ~れはドヤ顔にもなるだろう、という出来である。よって永久保存盤決定である。

 

 

 

それでは。