hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

なかにし礼の小説「さくら伝説」

なかにし礼をはっきり意識したのは、テレビドラマ「兄弟~兄さん、お願いだから死んでくれ~」を観てからだ。1999年3月10日にテレビ朝日の開局40周年記念スペシャルとしてドラマ化され話題となった。豊川悦司演じるなかにし礼がロクデナシの兄(北野武が演じている。こういう役をやらせたらたけしの右に出る者はいない)にこれでもかというくらい振り回されるけれど、憎んでも憎んでも憎み切れず大変な思いをする。ドラマは16年間会わなかった兄の死のシーンから始まる。「兄さん、死んでくれてありがとう」と言うなかにし礼

 

そのドラマに痛く感動した僕は、以後繰り返しビデオで観ることになった。思い切って本(1998年刊行)も買った。読んでみて分かったが、ドラマはかなり本に忠実に作られていた。この本も繰り返し読んでいた。

 

そこからぽつぽつとなかにし礼の本を読むようになった。

 

それ以前のなかにし礼については、黒沢年男の「時には娼婦のように」の作者であるということ、本人もその歌を歌っていたということ、歌謡曲の作詞をしていることくらいだった。「時には娼婦のように」はヒットしたが、あの曲がテレビのゴールデンタイムにばんばん流れていたって、一体どういう時代だったんだ。つまりはそれを家族で観ている人たちたくさんいたってことだ。少年たちは「娼婦」の意味がよく分からなくても「これはやばい曲だ」ということくらいは分かった。そのことでどれくらいバツが悪かったか。今ではこんな歌がゴールデンで流れるなんて考えられない。

 

小説家としてのなかにしは、「長崎ぶらぶら節」(1999)でデビューし、その年の直木賞を受賞した。その後も「テルテル坊主の照子さん」「赤い月」等を発表する。僕はそっち方面は読まず、いろいろな女性と関わる(多分現実にも関わっていたんだろう)物語を何冊か好んで読んでいた。

 

その中でも「さくら伝説」(2004)は、結構繰り返して読んでいた。ところがどこかの読者レビューを見ると、まあ評価が低い低い。そうか、設定が安易なのか、とか思いながら僕はもう一度「さくら伝説」を手にとってみた。

 

奈良県仏隆寺の千年桜で2人の男女が出会うとことから物語は始まる。この桜は別名「揚巻桜」と呼ばれる。この桜の樹の下で助六という遊侠と島原の遊女が心中したという話が浄瑠璃となり、大ヒットした。この話が下敷きになって物語は進む。

 

ある日心臓発作を起こした杜夫は、2つの不可思議な夢を見る。どちらも1歳の自分が出てくるが1つ目は泣いていて2つ目は笑っている。

 

助かった杜夫は最低でも1か月の入院を強いられるが、妻の響子はどこか嬉しそうだ。「女は束縛するのが好きなの」「とにかく女は不自由な生きものなの。だから男が不自由になったところを見るのが好きなの」と言う。ここら辺は向田邦子の「かわうそ」のようだ。

 

杜夫には愛人がいた。彼女は昔千本桜を見た時に出会った女性の子どもだった。その女性、亜矢にどんどん惹かれていく杜夫。というか引き込まれていくのを止めることができない。そんな杜夫のことを薄々気づいている妻響子は・・・また亜矢を通して夢を見た杜夫は・・・。

 

という話だが、心臓発作とか、女性のことなんかはきっとなかにし礼自身の体験を基にしてるんだろうな、と思いながら読み進めていく。

 

最後の結末は男にとっては複雑なものだったが、羨ましくもあり、またおぞましい結末だった。読後は爽やかさとは程遠いものだったが、何故かこの本だけ売らずにとっておいた。例によって僕は主人公の杜夫と二人の女性との会話や性行為の様子などを繰り返し読んでいた。

 

 

なかにし礼は、2020年12月23日82歳の生涯を閉じた。満州から始まった人生を見事に最後まで生き切った人だと思う。見た目がまたかっこよかった人だったんだな。これが。