前日に引き続き、今敏監督の言葉である。
病気で入院した時に「死」を意識しました。そしてだんだん元気になると同時にもうちょっとポジティブに考えられるようになったんですよ。今までぐずぐずして仕事に必ずしも積極的になれなかった部分というのは、その入院の経験を境にかなりね、・・・「今楽しまなきゃ損だ」ていう、これも打算ちゃあ打算なんですけど何か例えば今これだけ我慢仕事をすればきっと何かこういういいことがあるはずだ、とかね何とかのために我慢するっていうのをそういうものの考え方をやめましたね、多分。
今楽しくないものはきっと来年だって楽しくないみたいな、そういう考え方にシフトしていった感じがしますね。何かこう作品の完成を目指して刻苦勉励して頑張るみたいなのではなくって今がもうすでに楽しいっていう仕事の選択の仕方をしていかない限りは楽しい仕事ってないなっていう風には思いました。
楽しい仕事ってどこかに用意されているんじゃなくて楽しい時間でもいいんですけどそれは楽しくするものなんだっていうような考え方ですかね。だから選んだものを常に楽しくしていく努力をし続ける、その事自体が楽しいみたいな、そういうある意味こう健全というか健康的な歯車のはまり方はしたような気はしますね。
武田真治「何が魅力でした?やっぱり動くっていうことですか?」
そうですね、あのこれがまた不思議なところに戻ってくるんですけど、あの、他の人と一緒に創るってことだったんですよ。
武田真治「えっ?」(対談の最初にチームワークが嫌いだったという話を今監督はしていたので驚いていた)
かつては人とあんまり深く関わるような仕事は嫌だっていうところで絵の方に入ったんですけど、戻ってきたら人と一緒に創るのが楽しいっていうっていうところに結構来てたんです。で、それが自分でも面白かったし、じゃあそれの何が面白いのかというと、「自分以外のアイディアが同じ作品に盛り込まれる形」がすごく面白かったんです。
アニメーションの場合は(一人で漫画を描くことと違って)短所としては「誤解の幅、勘違い、思った通りにならない」っていうことになりますけども、自分からは出てこないアイディアにたくさん触れられるっていう、要するに予定通りにならないから面白いっていうことが一番面白かったですね。
「パプリカ」発表後、「夢の機械」という作品を手がけていたのだが、作品制作の途中で病魔に侵されたらしい(膵臓がん)。ちなみに「夢の機械」とは平沢進作品の楽曲名でもある。
昨日も書いたが、41歳の人の言葉である。すごいな。
2021年の武田真治は「一流の方は道なき道を行っているんですよね」「今監督のレベルだと、苦難を乗り超えること思った通りにならないことを楽しめるっていう領域になってくると『楽しむ』っていうことは何より大事だって仰るんですけど・・・当時の僕はよく分かっていなかったですね」と語っている。
本上まなみは「選んだものを常に楽しくし続ける、それが楽しむっていうことと仰った今さん。ご持参くださった美しく細密な絵コンテに感じたとんでもない熱量の高さ。語って下さるその言葉の向こうには、トップを走る方々特有の一人で道を切り開いていくタフな心が見えました」と語っている。