hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

冬眠日記その43 ~「初秋」を写経する~

スペンサーシリーズの名作「初秋」を探したが、家にない。仕様がないので書店で購入した。

 

~離婚した夫が連れ去った息子を取り戻してほしいースペンサーにとっては簡単な仕事だった。が、問題の少年ポールは、対立する両親の間で駆け引きの材料に使われ固く心を閉ざし何事にも関心を示そうとしなかった。スペンサーは決心する。ポールを自立させるには、一からすべてを学ばせるしかない。ボクシング、大工仕事・・・スペンサー流のトレーニングが始まる。ハードボイルドの心を新たな局面で感動的に描く傑作!~

 

である。実際その通りの作品になっている。スペンサーとともに過ごすようになり、だいぶ心を開いてきたポールはバレエに関心を示す。彼が何かに関心を寄せるのは初めてのことだ。バレエを夢中になって観た後、ポールはスペンサーに問う・・・

 

 

「彼らはどうしてあんなことを言うんだろう?」ポールが言った。

「なにを?」

「ダンスは女の子がやるものだ、って。やっている男はホモだとか。彼らはあらゆることについてそう言うんだ。料理、本、なにもかも、映画まで。どうしてそんなことを言うんだろう?」

「おまえの両親か?」

「そう」

私は吐息をもらした。「なぜなら、その程度の頭しかないからだ。自分たちがなんであるのか、あるいはそれを見いだす方法を知らない、立派な人間とはどんな人間であるのか知らないし、それを知る方法を知らないからだ。だから、彼らは類型に頼る」

「どういう意味?」

「つまり、きみのお父さんは、たぶん、自分が立派な男であるのかどうか確信がもてないし、そうではないかもしれない、という疑念を抱いているのだろう。そうでないとしたら、彼はそのことを人に知られたくない。しかし、彼は、どうすれば立派な人間になれるのか、知らない、だから、誰かから聞いた単純なルールに従う。自分で考えるより容易であるし、安全だ。さもないと自分で判断しなければならない。自分の行動についてなんらかの結論を下さなければならないし、その場合、自分が考えたことが守れないのに気づくかもしれない。だから安全な道を選んだらいいじゃないか、と考える。世に受け入れられる回路に自分のプラグを差し込むだけですむ」

「よくわからないな」

「無理もない。別の言い方をしよう。かりにお父さんが、自分はバレエが好きだとか、息子のおまえがバレエが好きだ、と人々に行った場合、彼は、あれは男がやるべきものではない、という男たちに出会う危険を冒すことになる。その場合、彼は、男とはなんだ、それも立派な男とはどういうものか、考えなければならないが、彼はその答えを知らない。そう考えてくると、彼はひどく脅える。お母さんの場合も同じだ。だから、彼らは、世間一般に通用すること、その問題を避けることのできる因襲的な考え方に固執するし、それで満足かどうかはわからないが、少なくとも崖の縁から下をのぞかなくてすむ。心底から脅える必要がなくなる」

「彼らは脅えているように見えないよ。確信してるみたいだ」

「それが真実を知る手がかりの一つなんだ。極度に断定的であるのは、脅えているか、愚かか、あるいはその両方なんだ。現実は不確定だ。確信を抱く必要のある人間が大勢いる。一般にこうあるべきだと考えられている道を捜して辺りを見回している。世の中に対して、テレビ・コマーシャル的な見方をするようになる。ビジネスマンは、ビジネスマンはこうあるべきだ、というあり方を学ぶ。大学教授は、教授はこうあるべきだ、ということを知る。建設労務者は、建設労務者はこうだ、ということを知る。みんな、こうあるべきだ、という姿になるべく努力することに生涯を過ごして、そうなれない場合は非常な不安にかられる。ひそかなる絶望状態に陥るのだ」

「あんたはそうじゃない」

 

そう、スペンサーはそうじゃない。彼は立派な人間とはどんな人間か考えるし、その能力もある。そして考えたことを実行する意志力も育んできた。彼に異議を唱える連中に俺はこう思う、と堂々と言ってのける胆力も育んできた。ポールのような少年にひとつずつ噛んで含めるように自分の考えを伝える努力もできる。しかし、世の中は彼のような人間を受け入れない。今も多かれ少なかれそうだろう?

 

自分で自分のルールを決めることの大切さを説くことができる大人は今、どれくらいいるのだろうか。もちろん自分も含めてだ。そして違う考えの人にどれだけそのことを伝えられるだろうか。少なくとも僕はスペンサーのような人間になりたいと思っている。そして「自分の言葉」でそれを伝えたい。

 

とか言いながらちゃっかりスペンサー(というか作者のパーカー)の言葉を拝借しているんだけどね。

 

 

若い人たちは今、どういう本を読んで学んでいるのだろうか。それとも本は読んでいないのだろうか。ちょっと興味がある。