2006年といえば今から15年前か。ついこの前のことのように感じてしまう。いやあ、歳ですな。
ブルース・スプリングスティーン(現在71歳)はその年に何をしていたかというと、アメリカのトラディショナルな歌をレコーディングし、ライブ公演をしていた。これが最高にいいんだ。
2006年4月25日「We Shall Overcome :The Seeger Sessions」をリリース。フォーク界の伝説、ピート・シーガーの作品をカヴァーした作品である。
「この作品でブルースは、アメリカの遺産ともいえるフォーク・ミュージックと、その故郷でもあるアイルランドの伝統音楽に包まれながら、実に生き生きとプレイしている」
「米フォーク音楽の探究者、ピート・シーガーにゆかりの曲を集め、自宅で腕きき演奏家とともに、完全アコースティック編成でほぼ一発録りされた1枚。」
「ご存じの通りピート・シーガーは自作曲を歌うだけでなく、古い労働歌、霊歌、反戦歌など重要なトラディショナル曲を熱心に発掘/伝承し続けた偉人である」
「つまりシーガーに捧げるアルバムをという体裁を取りつつも、本盤はスプリングスティーンによる米トラディショナル名曲集というか、歌うアメリカ史の色合いが濃い仕上がりになっている」
ということらしい。
僕は、この作品を聴く前にWOWOWでニューオーリンズ公演の方を先に観てびっくりしてしまったのだ。それは、2006年4月30日にニューオーリンズ・ジャズ&ヘリテッジ・フェスティバルに出演した際のライブで、何といってもバンド編成がすごい。アコーディオン、フィドル、バンジョー、スティール・ギター、ホーン・セクションを含むアコースティック編成なのだ。スプリングスティーンとバンジョー?と最初は思ったがいやあ素晴らしい演奏と歌だった。
そしてあわてて「We Shall Overcome :The Seeger Sessions」を購入して聴いたのだった。一聴して思ったのが、「ボスらしくない声だな」ということだった。いつもより声が硬質な感じがする。暑苦しい彼本来の声は苦手だったのでこんなブルース・スプリングスティーンならいいなと思い、またライブ映像を観てみたら、ワオ、ライブはいつもの「ボス声」じゃないか。
どういうことなのだろう。CDの方は初めてのメンバーと古いナンバーを歌うという新しい試みから少し硬質な声になっちゃっていたのかな。でも聴いたり観たりしているうちにそんなことはどうでもよくなっちゃった。どっちもいい声だ。
そしてその勢いで2007年「Live in Dublin :with the Sessions Band」をリリースする。これは、2006年11月17日~19日にアイルランド・ダブリンの「ザ・ポイント」で行われたコンサートから23曲を収録したアルバムだ。2時間4分、駄曲なしの素晴らしいアルバムだ。これを聴き始めたら途中で止められないよ。
最後にニューオーリンズ公演での「ボス」のMCを2つ書き留めておこう。
「さてと。次は史実をもとに書かれた曲だ。人間と機械の対立がテーマになってる。19世紀末に東武鉄道ビルの間で起きた争いだ。」(John Henry)
「次は昔のフィドルの曲だ。1843年頃に広まった曲らしい。150年前のボブ・ディランにも聞こえる。古いフォークの歌詞は非現実的なのが多くてね。」(Old Dan Tucker)
スプリングスティーンよ、まさしくこの時の貴方がディランのようだったよ。同時に若くて線の細いバンジョー奏者に「もっと前に出ろよ」と促す彼は、まぎれもなく「ザ・ボス」だった。
そしてそして。これを聴いて思い浮かべずにはいられなかったのは、日本が誇るバンド、ソウルフラワー・ユニオンだった。
(続けたい)