はじめまして。hanami1294と申します。早速ですが、やりたいことをすぐに始めます。私の書いた小説もどきを読んでもらいたくて始めました。
400)(フォーハンドレッド)
400!
字詰めに煮詰めて
己を見つめて言葉を沈めて
400!
世の中の嘘800
真っ二つに切る言葉
~Shing02~
一回目
始まり~授業Ⅰ
ふぅ。やっと仕事が終わった。私はため息を一つつきながら車から降りた。そして部屋に入り煙草に火をつけ、ニック・ケイヴを聴きながら17時30分になるのを待った。17時30分からなら酒を飲んでよし、というのが私の決めた勝手なルールだった。アルコールとニック・ケイヴは相性がいい。あの低い声が合うんだろうな、きっと。私のスマホにはどんどんニックの曲が取り込まれている。今日はビール500mlを2本とジントニックかな。こんな生活、つまり連続飲酒をする生活が何ヶ月続いているのだろう。少なくとも3ヶ月は続いている。ビール2本を15分で飲み終え、すぐにアルコール度数の高い酒(大体はジンかラムだ)を飲み始める。ニック・ケイヴを聴きながら。頭がグラグラするまでひたすら飲み続け、最後は酒で眠剤を流し込んで寝る。毎日深く眠ることはなかった。途中覚醒が何度も訪れたが、不思議と二日酔いはしなかった。夢は見なかった。とにかく頭の中をグラグラさせてその日1日のことを忘れたかった。もともとアルコールが好きなわけではないのに何故こんな風になったのか。強いて言えば職場が居づらいからかな。いやそれだけじゃないな。あれこれ考えているうちに17時30分になった。私は立ち上がり、冷蔵庫へ向かった。
その時である。
コン、コン、コンとノックの音が3回聞こえた。現実離れした音だった。この世のものとは思えないような不思議な響き。しかし確かにノックの音だ。私は出るか出ないか迷ったが、結局好奇心に負けて玄関に向かった。
ドアを開けるとそこには妖精がいた。なんで妖精って分かるかって?だって私よりうんと小さくて私の顔の高さでふわふわ浮かんでいるんだ。背中には羽がついている。これはどう見ても妖精だろう。顔を見ると整った顔立ちでクリッとした目をしている。髪は長い。右手には棒を持っている。そして白いブラウスを着て黒のスカートをはいている。OLかよ、と思いながら私は一応声をかけてみた。
「どちら様ですか?」
「妖精です。」
ほら、やっぱり妖精じゃないか。
「何しに来たの。」
私は、くだけた調子で話しかけてみた。
「あなたに授業をしてもらおうと思って来たの。」
「授業?授業ならもうしてきたよ。それにここは俺の家だ。学校じゃない。子どももいないし。」
「大丈夫。ここを教室にして、子どもも用意するわ。」
そう、私は小学校の教員をしているのだ。妖精の登場までは、何とかついていったが(それもまたおかしな話だが)、私は頭がクラクラしてきた。
「まずは、ここを教室にしましょう。」
妖精は、持っていた棒を一振りした。
教室が現れた。
マジか。もうやるしかないのか。
「何年生にする?」
妖精が俺に聞いた。
「じゃあ4年生で頼むよ。」
「了解。」
妖精は、また棒を振った。振るごとに次々と子ども達が現れた。
「とても真面目で頑張り屋のハジメさん。」
「発言することが好きで、よく黒板の前に出てきて説明するスズカさん。」
「算数の勉強は、正直言って面倒くさいと思っているタケルさん。」
「ノートに自分の考えを書くことが得意なマナさん。」
「他の友だちが考えないようなことを思いつくレンさん。」
棒を振りながら妖精は説明した。
私が、
「学力低位の子はいないの?」
と聞くと妖精は、
「了解。」
と言い、棒を振った。
「先生や友だちの言うことをなかなか理解できないシンヤさん。」
「どう?これで授業できる?」
「できるよ。」
もうやけっぱちだ。
「ところでキミの名前は何て言うんだい?」
「チアイよ。」
チアイ。その言葉の響きに何故か分からないが得も言われぬ懐かしさを覚えた。さっきから現実離れしたことが続いているが、まあそんなことはどうでもいい。いい暇つぶしになる。
「じゃあチアイ、授業するから見ててくれよ。」
「はい。」
チアイは素直に返事をした。
「でも使うものなんてないぞ。」
「それなら大丈夫。あなたが欲しいと頭で考えたものすべてを準備することができるわ。」
と言った。そうか。人間を出してきたんだから、そんなのお茶の子さいさいか。
私は子ども達の方に向き直って、言った。
「初めまして。先生の名前は、タナカと言います。よろしくね。」
「それじゃあ、先生と同じ『タ』のつくタケルさんに号令を頼もうかな。」
「えー、面倒くさいなぁ。」
とタケルが言ったので、
「これは、ここで1回しかしない授業です。君達とは1回しか授業はしない。だから先生は面倒くさい、って思ってはしない。もう2度と君達とは会えないからね。タケルさんには面倒くさいって言ってもらいたくないな。」
と言うと、タケルはしゃあないか、といった顔で、しかししっかりとした口調で、
「起立、礼、着席。」と言った。
なんだか、授業をするスイッチが入ったぞ。やるか。やるとしたら、「授業開き」だな。最近の私の得意技だ。
「それではみんなが4年生になった時の最初の授業をします。まず一つ実験をしましょう。先生の真似をしてごらん。」
私は、両方の手の指を組んだ。そして子ども達と同じ方に向き、
「先生は左手の親指が上になります。先生と同じになった人。」
と聞くとスズカ、シンヤ、レン、マナが手を挙げた。
「先生、僕は先生と逆だよ。」
とタケルとハジメが言った。
「別にどちらが正しいっていうのはないんだよ。じゃあ、今度は今のと逆の組み方をしてごらん。」
と言って実際に見せた。
最初にスズカが、
「なんか変な感じ。」
と言うと、タケルが、
「気持ち悪い。」
と言った。
「変な感じ、気持ち悪い。確かにそうだよね。でもこっちの方が普通に感じる人もいるんだ。タケルさんにとって気持ち悪くてもスズカさんやシンヤさん、レンさん、マナさんにとっては普通なんだ。人間ってこんな小さな動作でも人によって違うんだよ。もう一つやってみようか。もう1回、先生の真似をしてごらん。」
私は、腕を組んだ。子ども達と同じ方に向いて言った。
「先生は右手が上になります。」
もうそれぞれの子がいろいろなことを喋っている。
「さっきは、左が上だったのに、今度は右が上だ。」
「私はどっちも同じだった。」
「はいっ、先生の方を見て。うん、早いぞ。みんなの目の力を感じるな。みんなが先生の話を聞こうとしている証拠だね。」
「この実験で分かることは、人にはいろいろな感じ方があるっていうことなんだ。実は勉強も同じです。人によっていろいろな分かり方があるんだ。今みたいに先生が喋っている方が勉強の中身が分かりやすい人や黒板に書いてある字を見る方が分かりやすい人、とかね。漢字の勉強もそう。漢字を筆順で覚える方が覚えやすい人もいるし、漢字の形を見て覚える方が覚えやすい人もいる。そんな風にいろいろな分かり方をする人達が一緒に勉強するのが授業なんだ。まずこれをよく覚えておいてほしいな。」
「次は、ボールを使って勉強するよ。」