私は、少し間を置いて言った。
「それは『聞く』ということです。だって、『合う』ためには、そして2つ目の図を目指すなら話を聞かなきゃだめでしょ?」
私は黒板に「聞く」とゆっくり書いた。
「聞く力を鍛えれば、どんどんみんなと先生が目指す授業に近づくと思っています。」
「聞くこと名人への道は、実はレベル4まであります。レベル1はねー、今みんなできてるね。言うよ。レベル1は体で聞く、です。今は先生が話しているから先生の方におへそを向けて目で聞いてるね。これが体で聞くということです。じゃあ・・・スズカさん立ってくれる?今からスズカさんが発言するとします。みんなはどうするかな。」
スズカが立つと、みんなは一斉にスズカの方に体を向けた。スズカもみんなの方を向いた。
「ほら、こうなるでしょ。それからスズカさんは、みんなの方を向いたね。素晴らしい。」
次々と指名し、聞き手はどう体を向けるか、話し手はどちらを向いて立つかを練習した。
「これがレベル1です。でもごめん、今はウイルスの関係で体で聞くことはしないで下さい。先生の方を向いて話して下さい。学校が今までの姿に戻ったらやろうね。じゃあレベル2は何か。それは、再現できる、ということです。」
「例えば、今から先生が好きな食べ物を4つ言います。それを聞いて全部再現して下さい、とかね。」
「えー、無理だよ。そんなの。」
と言いつつもみんなが、
「先生、1回やってみたい。」
と言うので、
「じゃあ言うよ。先生の好きな食べ物は、うどん、そば、ラーメン、パスタです。」
「じゃあ聞くよ。先生が最初に言った食べ物はな~んだ。」
全員が挙手することが出来た。シンヤを指名した。
「うどんです。」
「正解。」
「じゃあ、4つ全部言える人。」
これも全員挙手だ。タケルを指名した。
「うどん、そば、ラーメン、パスタです。」
「正解です。これが聞くこと名人への道レベル2です。」
「先生、先生の好きな物の共通点を見つけたよ。」
とハジメが言った。
「ほう。そりゃすごい。ハジメさんが、先生の好きな食べ物の共通点を見つけたんだって。みんなは?」
「あっ。」
とレンが言った。
「ハジメさん、レンさんも見つけたらしいよ。言ってみて。」
「先生の好きな食べ物は、どれも麺類です。」
「ほんとだ。」
みんななるほど、という顔をしている。
「今、共通点を見つけたってハジメさんが言ったけど、これは勉強する上でとても大事なことなんだ。色々な考えが出たときに、共通点はないかな?って考えると面白いことが分かる時があるよ。」
「先生、レベル3は何ですか?」
スズカが言った。
「レベル3が何か知りたい?今スズカさんがしたことだよ。」
えっ、私何かした?とスズカがつぶやいた。
「スズカさんは、先生に向かって聞いたでしょ?レベル3は何?って。」
みんなはうんうんと頷いている。
「みんなも気になったでしょ。そういうとき、つまり話を一生懸命聞いている時には、質問したくなる時があるでしょ。質問したり、私はこう思うって意見を話したりしたくなるでしょ。聞くと話したくなる。これがレベル3です。」
「ここまでは、できそう?」
みんなうーん、できるだろうかというような顔をしている。
「今日だけじゃなくてこれから君達がずっと頑張っていくことなんだよ。だから慌てずゆっくりやっていけばいい。忘れずに続けていけば、必ず聞く力がつくよ。」
「先生、レベル4は何ですか。」
「それは、今日は言わない。だってもう45分過ぎちゃったよ。先生、君達と授業するのは1回だけだって言ったのにもう1回やりたくなってきたな。みんなは?」
やりたいと、子ども達が言ってくれたので、チアイに
「もう1回やらせてもらえないかな?」
と言うと、それまで黙って見ていたチアイはしばらく考え込んでいたが、やがてにっこり微笑んで、
「了解。明日ここで。この時間に。もう1回授業をしましょう。」
と言ってくれた。
「じゃあ、そういうことで。これで今日の授業を終わります。」
すると、タケルがさっと、
「起立、礼、着席。」
と号令をかけてくれた。
チアイが1回棒を振るごとに、子ども達が消え、教室も消えた。それを見てやっと私は、ああ、これは現実の世界の出来事ではなかったんだ、と改めて実感した。