hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

2回目   授業Ⅱー前半

 次の日の17時30分。コン、コン、コン、とノックの音が3回聞こえた。昨日と同じ様に現実感のない音だ。

 玄関へ向かい、ドアを開けた。チアイがいた。昨日のように私の顔の高さでふわふわ浮かんでいる。今日もOLスタイルだ。

「こんにちは。」

「こんにちは。」

 お互いに挨拶を交わし、チアイを部屋に入れた。

「昨日はよく眠れた?」

 チアイの質問に私は、

「久しぶりに途中覚醒がなかったよ。深く眠れた。」

と答えた。

「それはよかった。じゃあ、早速始めましょうか。」

「ああ、いいよ。今日は算数をするよ。本当は2学期に学習するところなんだ。東書の「式と計算」の第4時の設定にしてもいいかな。」

「了解。」

 昨日と同じようにチアイが透明な棒を振ると、教室になり、子ども達が次々と現れた。

「こんにちは、いやもうこんばんは、だね。」

 私は子ども達に話しかけた。そして、すぐ授業を始めた。

「今から○の数を数えてもらいます。いいかな。見せるよ。」

と言って私は、この図を見せて、パッと隠した。シンヤの様子を見ると、一生懸命2こずつ数えていた。

 

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 全員静かに手を挙げた。

「えー、みんなもう数えられたの?ちょっと早いんだけど。すごいな。」

「シンヤさん、何こあった?」

「12こです。」

「みんなもそうなの?」

「だって2こずつ数えたもん。」

とスズカ。

「マナさん、何こずつ数えたって言った?」

「2こずつ数えたって言いました。」

 良かった。マナもちゃんと聞いてるぞ。それにしても最初にシンヤを指名したのは大きな冒険だったが、正解を言えて良かった。

 私は、図を黒板に掲示して12個あることをみんなで確認した。

「僕は、4×3をしました。」

とタケルが言った。

「へぇ~。」

と私が言うとハジメが、

「僕は8+4をしました。」

と言った。2つの式を黒板に書き、

「なるほど。みんな答えは12個で同じだけど、やり方が違うみたいだな。」

と言って私はレンを指名した。

「レンさん、これとこれはどこが違うの?」

と2つの式を指しながら聞いた。レンはすかさず

「4×3はかけ算で、8+4はたし算です。」

と答えた。

 ここは、授業の導入だからテンポ良くいきたいところだが、押さえるべきところは押さえないと。私は逸る気持ちを抑えながら、

「4×3を言葉にすると?」

と聞いた。するとシンヤ以外の子が挙手する。

「ようし、シンヤさん。今から言う友だちの言葉を後で再現してもらうよ。みんなは、シンヤさんが言いやすいように言葉を考えて。」

と言うと、ハジメが、

「僕言える!」

と言った。

 指名してハジメが立った後、すかさず私は、

「今から誰が喋るの?」

と座っている子ども達に聞いた。聞くこと名人レベル1だ。みんなハッとして、ハジメの方に体を向けた。ハジメもみんなの方を向いた。

「4×3は、4このまとまりが3つです。」

と言った。

「よし、シンヤさん。再現してみて。」

「4×3は、4このまとまりが3つです。」

と答えた。

「聞き方名人レベル2ができてるね。」

と俺が言うと、シンヤが照れくさそうに笑った。みんなも、明るい表情だ。

「じゃあ、8+4だけど、実はこの中にもかけ算があるんだよ。」

と言うと、しばらくして、

「あ、分かる。」

「あっ、ほんとだ。」

ハジメとタケルが言った。タケルを指名すると

「8は4×2の答えです。」

と答えた。

「ああ、ほんとだ。たし算の中にもかけ算が隠れていることもあるんだね。」

「じゃあ4×3からいくか。このままじゃ4×3がよく分からないんだけど。4×3が見えるようにしてくれない?」

 私は図を指し示しながら言った。思った通りスズカが手を挙げた。私は、

「スズカさんは、他の人の考え方が分かるんだね。じゃあ、途中までスズカさんに頼もう。他の人は続きができそうなら手を挙げるんだよ。」

と言った。スズカは次のようにした。

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「あっ。続きできる。」

とみんなが言った。

「マナさん、指で続きをしてくれる。」

と言うと、マナはすぐに前に出てきて指でなぞった。

私はマナが指でなぞったところをマジックで書いた。

 

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「囲むと分かりやすいな。」

ハジメが言った。

「囲むと何が分かりやすいの。」

ハジメに問い返すと、

「同じ数のまとまりです。」

 すかさずハジメが答える。こちらもすかさずみんなに、

「今、ハジメさんは何て言った?」

「同じ数のまとまりです。」

 みんなが口々に言った。

「そうだね。囲むと同じ数のまとまりが見やすくなるよね。」

「先生、まだ別の囲み方があります。」

 タケルがそう言ったので、前に出てなぞるように言った。

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「なるほどね。」

と言うとタケルが、

「先生、これはハジメさんが言った式の囲み方です。」

と言った。

「あーそうかそうか。なるほどね。」

「先生、言いたい。気づいたことがあります。」

「おっ、『たい』を見つけたぞ。どうぞ。」

 スズカが言った。

「最初の囲み方は同じ形が3つあるけど、ハジメさんの囲み方は数も形も違います。でも8このところに横線を引くとタケルさんのと同じ形になります。」

「さっきハジメさんは8の中に何があるって言ってたっけ。レンさん。」

「4×2です。」

「つまり横線を引くとさっきの囲み方と同じだって言いたいの?」

 スズカが頷いた。

「確かにそうなってるね。じゃあハジメさんが言った8+4という式を変身させられるかな。」

 レンが手を挙げた。

「4×2+4です。」

「なるほど、さっきレンさんが言った4×2に4を足したわけだ。つまり、スズカさんは、4×3と4×2+4は同じだって言いたいのかな?」

「だって3年生の時に勉強しました。4×3=4×2+4だって。」

「おっ、よく覚えていたね。みんなも覚えている?」

「今思い出した。」

とタケルが言った。

「ところで、スズカさん、最初に2こずつ数えたって言ったけど、これも2このまとまりってことかい?」

 スズカが頷いた。

「シンヤさんも?」

と聞くと、シンヤも力強く頷いた。

「ふーん、じゃあ君達は、同じ数のまとまりを見つけて数えたってわけだ。」

 みんなが頷いた。

「じゃあ、次の問題にいくよ。これは何個?」

また同じようにパッと次の図形を見せ、ゆっくり隠した。

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「えー、もう1回見せて!」

とみんなが口々に言うので、もう1度ゆっくり見せた。

「これ、1,2,3,4・・・って数える?」

「ううん。」

「さっきの考え方、使えそう?」

「うん。」

「じゃあ、今日はただ数えるんじゃなくて、どうするんだ?」

「同じ数のまとまりを使う。」

「何て書こうかな。●の求め方を・・・」

「同じ数のまとまりを使って!」

ハジメが言うと、

「1つの式に表そう!」

とタケルが言った。

「すごいな。先生は最初しか言ってないぞ。うん。じゃあそういう課題にしようか。」

 みんな黙ってノートに書いている。その間に私はドット図を掲示する。シンヤが書き終わるのを確認して、

「先生にはもうまとまりが見えたな。」

と、挑発すると、

「あー、僕にも見えた。」

とタケルが言った。

「じゃあ聞くよ。できるっていう人、できるだろうなって思う人、うーん難しいっていう人で聞くよ。できる人。」

 4人が挙手した。

「できるだろうなっていう人」

 1人挙手。マナだ。

「うーん難しいっていう人。」

 1人挙手。シンヤだ。

「これで全員手を挙げました。全員手を挙げるって大事なことなんだよ。ごまかしたりしてないんだから。だから、シンヤさんが難しいって手を挙げることは素晴らしいことなんだ。」

「さあ、みんなどうする?シンヤさんがはてなの家に入ってるぞ。」

「ヒントを出せばいい。ちょっとだけ。」

「なるほど。ちょっとだけっていうのがいいな。」

「じゃあ誰からでもいいよ。」

「4このまとまりが見えます。」

ハジメが自ら立って発言した。ハジメは、その態度で授業をリードしつつあるな。その後みんなはシンヤを見た。シンヤはうーんと困った表情だ。

「先生、前に出ていいですか。」

 スズカが言った。

「どうぞ。」

ハジメさんが言った4こは、こことこことこことここです。」

と指でなぞった。

 シンヤを見るとはーん、と納得した表情をしている。

「シンヤさん、できそう?」

と聞くと、

「できるかもしれない。」

と言った。しかしシンヤはまだ4このまとまりしか見えていない。ちょっと仕掛けるか。

「すごいな。みんなの発言や応援のおかげで、シンヤさん、はてなの家を出られそうだぞ。」

「じゃあ、スズカさんの言ったところを囲むよ。」

と言い、4このまとまりをマジックで囲んだ。そして

 

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「あっ、ここにもあった。」

と言い、3このまとまりのところをゆっくり囲もうとしたら、すかさずみんなが、

「先生、そこはちがう!」

「そこは4こじゃなくて3こ!」

「えっ、違うの?何個のまとまりだって?もう1回言ってよ。」

 全員が挙手した。マナを指名すると、

「3このまとまりです。それに、3このまとまりも他にもあります。」

と言った。

「そうかー。3このまとまりもあるのか。どう?シンヤさん、できそうかな。」

シンヤは、うんと頷いた。

「さあ、みんなどうしたい?」

「先生、これがかいてあるプリントが欲しいです。」

「分かったよ。」

と言って、ドット図が書いてある紙を1枚ずつ配った。

「何分ほしい?」

と聞くと、5分、10分などがでたので、

「自分達で決めなさい。20秒で。」

と言った。

 子ども達はああだこうだ言いながら、20秒後に、

「5分下さい。」

と言った。それから、

「1つできたら、他のやり方でやっていいですか。」

ハジメが言ったので、逆に

「どう思う?」

と返したら、ちょっと困った顔をして、

「いいと思います。」

と答えた。そう。よく言ったぞ。ハジメ。それが自己決定だ。

「それでは始め。」

 子ども達が問題を解いている間私は前にいて、何を書いているのかを確かめなかった。普段は机間支援と言って、問題を解いている子ども達の様子を見るのだが、今日は全員問題解決の見通しを持っていたからだ。シンヤに対してだけ、問題に取り組むことができているか見ていた。さっきスズカが提示したやり方に取り組んでいた。

「はい。おしまい。鉛筆を置いて。」

「先生、もう少し時間を下さい。」

とみんなが言うので、

「いや、君達が5分って言ったんだからもう終わりだ。自分達が言ったことに責任を持ちなさい。」

と言った。

「何から話したい?」

「式を言いたいです。」

「みんなはそれでいい?それじゃ式を言って下さい。」

 全員挙手だ。シンヤを指名した。

「4×4+3×3=25です。」

「他にもあります。」

「ちょっと待って。これは書いていいの?一応まだ正解かどうか分からないけど書いておくね。」

 次にマナを指名した。スズカは我慢しているようだった。

「3×8+1=25です。」

「なるほど。これも書いておくよ。」

と言いながら黒板に式を書いた。

「あとは?もうない?はい、スズカさん。」

「3×7+4=25です。」

「先生、俺の式長いよ。」

とタケルが言った。

「ほう。それは楽しみだ。どうぞ。」

「1+3×2+7+5×2+1=25です。」

「確かに長いね。面白そうだな。」

「じゃあみんなに聞くね。4通りの式が出たけど、自分の書いた式じゃないものがある人。」

 全員が挙手した。

「じゃあ、今からその式を解読してごらん。」

と言うと、

「えー。分からないよ。特にタケルさんの式。」

とか、

「全部分かるよ。」

とかいろいろ言い始めた。しかし、レンが、

「先生、図をください。」

と言うと、みんなも気を取り直し、僕も私も図をくださいという状態なった。黙って図を配り、みんなに確かめた。

「最初の問題で、どうすると分かりやすいって言っていたっけ?マナさん。」

と聞くと、マナは固まってしまった。すると、ハジメが、

「マナ、さっき俺が言ったこと言えばいいよ。」

と助け船を出した。その励ましを受けてマナは、

「囲む、だと思います。」

と言った。よし、もう一押しだ。私は、

「『思います』って言ったよね。『絶対』、じゃないのかな。」

 マナは、ますます固まる。今度はタケルが、

「マナ、『思います』を使わなきゃいいんだ。」

とアドバイスした。タケルも昨日から随分伸びてきたな。そしてマナは、

「囲む、です。」

と言うことができた。よし、マナ。よく言った。みんなにも確かめた。

「囲むと分かりやすいんだね、絶対に。」

 みんな、うん、と力強く頷いた。

「じゃあ、やってごらん。」

 みんな黙って式を見ながら、図にいろいろ書き込んでいる。私は、シンヤのところへそっと行き、

「自分の書いた式でやってごらん。」

と言った。シンヤは、納得して作業に取り組んだ。シンヤは、彼なりに一生懸命授業に参加している。

 もう1枚欲しいという子にもいたので、

「1つだけじゃ物足りない人はどんどん取りに来なさい。」

と指示した。

「そろそろいいかな。1つは解読できたよっていう人。」

と聞くと、全員が挙手した。

「じゃあ最初に話す人だけ先生が決めるね。シンヤさん。どうぞ。」

といい、私は黒板の隅に行った。シンヤは、前に出て、

「ここに4このまとまりがあります。そしてここに3このまとまりがあります。」

と言った。

「シンヤ、3このまとまりをマジックで囲んだらどう?先生いいですか?」

とスズカ。

「勿論。」

と私。シンヤが赤いマジックで囲もうとした時にレンが、

「シンヤ、色を変えたら。」

と言った。シンヤは、納得して黒いマジックで3このまとまりを囲んだ。

 

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「解決した?シンヤさんはどの式を解決したの?マナさん。」

「4×4+3×3です。」

 みんなは頷いた。私は最小限の言葉だけ言うつもりだ。しかし、このままみんな黙っていたので、

「続けて。」

と言った。しばらくみんな黙っていたが私も知らん顔をしていた。さあ、誰が手を挙げるかな、と思っていたらハジメが手を挙げた。しかし私は、マジックで囲もうとして前に出て来たハジメを制し、

ハジメさん、あなたがやろうとしていることを、まず言葉で言ってくれないかな。」

 そしてハジメに、小さな声で、

「みんなにも考えてもらいたいんだ。」

と言った。ハジメは、「分かった。」という顔をして、言った。

「3このまとまりが8つとあまりが1つあります。」

「ふーん、あまりかぁ。おもしろい囲み方になりそうだぞ。」

と言ったら、「できる、できる」とシンヤ以外挙手したので、

「それじゃあペアになって説明してみて。起立。説明が終わったら座って下さい。」

と指示した。おのおのが図を指し示しながら一生懸命説明している。全員が座ったので、

「じゃあ、ハジメさん、お願い。」

と言ってハジメに囲ませた。

「どうだった。これで納得したかな。」

と言うと、スズカが、挙手して、

「3は3でも三角みたいな3と横に並んでいる3があります。」

と言った。

「えっ、何だって。」

と聞くと、スズカが、

「先生、レベル2だね。」

と言った。いいぞ、スズカ。エンジンがかかってきたな。さあ、誰に当てようか。ここは、マナかシンヤだな。

「今、当てられたら困る人。」

と尋ねると、手をぴんと伸ばして、マナとシンヤが挙手した。

「はい、じゃあマナさん。」

と言うと、マナは困った顔をした。

「当てられたら困る人って聞いただけだぞ。当てないとは言ってない。頑張れ。」

 マナはほんとに困った顔をして、

「三角みたいな3と・・・。」

と言って、途中で言葉に詰まってしまった。

「途中まで言えたじゃないか、マナさん。それでいいんだよ。大丈夫。あとは友達がつなげてくれるから。」

とマナと他の子ども達を見て言うと、みんなが、

「つなげます。」

と言って挙手した。レンを指名して、スズカが発言した言葉を再現することができた。