遥か昔、東京にオオカミが

只今13時。気分は冴えない。気づいたらタバコ吸いたいな―と思っている。特に寝そべって音楽を聴いていて、「いい曲だな」と思った時には飛び上がって煙草を無意識に探しているのには参った。都こんぶの消費量は上がりっぱなしだ。

 

 

今日は頭脳警察の「東京オオカミ」について書こうと思っているのだが、大丈夫だろうか。取り敢えず流しっぱなしにしておこう。

 

 

 

うーん、いいアルバムだ。じゃあ重い身体を無理矢理起こして(←比喩ではない)、書いてみっか。

 

 

頭脳警察のパブリック・イメージと合ってるなっていうのは1曲目とラストの曲である。どちらもギターがバリバリ唸ってる。タイトルの「東京オオカミ」はアルバム全体を言い表しているか、と言えばうーん、、、と唸らざるを得ない。でもそんなことはどうでもいいんだ。パンタが歌ってトシがコンガを叩いていればそれが頭脳警察なわけで、コンセプトがどうとかは吹っ飛んじゃうんだよね。

 

 

パンタは2021年に余命1年の宣告を受けている。その前後から「歴史の復讐劇みたいなアルバムを作りたい」と言い始めた、その過程で東京にオオカミの石像があると知ったパンタが妄想を膨らませ始めた。そしてアルバム作りが始まった。1曲目はタイトル曲である「東京オオカミ」という。

 

 

東京オオカミ・・・バリバリと唸りを上げるかっちょいいギターから曲は始まる。そしてパンタが「むかしむかし狼が群れなしてたんだ 荒れたこの東京で」と雄々しく歌い出す。「味方もなく証もなく救いのないものに 遠吠えよ届けとばかり そうオレは石になって お前を見守っている」と歌い「吠え続けろ」と繰り返し歌うパンタ。1曲目として最高だし、「石になってお前を見守っている」のところは思わず亡くなったパンタと重ねてしまう。

 

 

タンゴ・グラチア・・・グラチアとは明智光秀の娘、細川ガラシャのこと。敬虔なキリスト教徒として、そして壮絶な死を遂げた彼女のことをイエズス会が「勇敢な女性―丹後王国の女王グラッツィア」というオペラにしたという。パンタは「丹後」を「タンゴ」に変換し、タンゴ調の曲を作った。歴史に復讐するというコンセプトのもとに作られた。いい曲だよ。

 

 

RUNNING IN 6DAYS・・・この曲だけミックスが混沌としていて、パンタのヴォーカルが音の中に埋もれている。せっかくのいい曲なのに、と思っていたらライナーに「パンタのヴォーカル収録が間に合わなかったためリハーサル音源を使用しています」と書いてあった。そういうことだったのか。ちょっともったいない。でも切ない話である。

 

 

ざらしの文明・・・この曲をパンタが書いたのは1968年。頭脳警察結成以前のことだ。なんというか、ネットリ系のメロディ。最後は「明日もまたおかされ続けてめちゃくちゃな知らせが届くだろう」「紙切れは焼いてしまえばいいのさ 幸せはあなたの心の中に」と締めている。10代後半にこういう詩を書いていたなんてすごい。

 

 

ソンムの原に・・・かっこいいベースラインから始まって「ウゥ~ワァワァワァ」というコーラスが可愛い曲。しかし歌の内容はヘヴィだ。パンタお得意の歴史ものである。ソンムというのは・・・まあ興味のある方は知っているか調べるかするか。ヘヴィな内容の歌詞をこういう可愛いポップソングに仕上げることができるのはパンタだけである。

 

 

 

いかん、先を急ごう。

 

 

 

ドライブ・・・パンタの怠い歌い方がかっこいい。曲は頭脳警察の若いメンバー(ベースの宮田岳)が作った。ドラムが好きだなあ。

 

 

風の向こうに・・・これも宮田が曲をつけた。この曲もいいよ。歌い出しからかっこいい。そしてヴォーカルとコーラスの掛け合いのところがかっこいい。まあ、聴いてもらうしかないか。

 

 

宝石箱・・・こちらはギターの澤竜次が曲をつけた。パンタの体力面から作曲が困難になってきたことと、パンタ自身が若手の曲もやりたいと望んだからこういう形の曲が収録されることになる。曲はまあまあかな。あとで「しまった!これはいい曲だ」ってなるかもしれない。

 

 

海を渡る蝶・・・これはジャズっぽいというかアングラっぽいというかそんな歌。とすればセリフが登場する可能性が高い、と思ったら出てきた。朗読しているのはキノコホテルのマリアンヌ東雲。外連味たっぷりの朗読である。

 

 

時代はサーカスの象にのって・・・2008年に既に発表している曲。作詞は寺山修司と彼のスタッフだった高取英、と書くと分かる人には分かるかな。ただし演者が若者なので古臭くは感じない。

 

 

冬の七夕・・・これは悲しい。悲しいし、切なくなる歌だ。パンタの盟友であった橋本治に向けて歌った曲である。橋本が亡くなった日(2019年1月29日)に作られた。「水平線を溶かした朝に もう半分のキミを見つけた」「声を聴かせて 川の畔で 手を振りつづけた」というくだりは涙失くして聴けない。

 

 

絶景かな・・・頭脳警察の、そしてパンタの最後の曲としてここに収まるべき曲である。曲自体は2020年に発表されている。本作は新ヴァージョンだ。イントロについてメンバーのおおくぼけいが次のように語っている。「今回のアルバムはセルフ・オマージュ的な要素を入れてあって。『絶景かな』のイントロは『世界革命戦争宣言』を持ってきているんです。あの感じは僕が考えて«これ絶対かっこいいからやってください»って」。

 

 

つまりは「世界革命戦争宣言」から始まった頭脳警察が、同じイントロの「絶景かな」で終わるというのだ。美しい終わり方だ。しかし歌は穏やかだ。この歌詞は是非少しでも書いておきたいな。

 

 

♪いまキミといる ただそれだけ

♪いつのまにかここにいる 

♪疑うものはなにもない 嘘だっていまは笑えるさ

♪そういまはなにもない うぬぼれもない 敗北感もない

♪何百年が過ぎても 永遠なんてない

♪夜の煙突昇り詰めて 闇に飛び込むだけさ

 

♪同じことを繰り返してばかりの世界

♪能書きばかり垂れていたけど そんなことはどうでもいいんだ いまは

♪ただ キミと見てる未来

♪絶景かな 絶景かな

 

 

♪すこしはキミと 近づけたかな

♪時間だけが過ぎたよね

♪まとわりついた埃払って 困らせてばかりだったよね

♪そういまはなにもない 恐怖心もない 失望さえない

♪そう帰れなくなっても 悔いはしないよ

♪幸せだった想い出に 笑って手を振るだけさ

 

 

♪嫌われても仕方ないばかりの日々に

♪鼻っ柱折られもせず

♪そんなことはどうでもいいんだ いまは

♪ただ キミと見てる未来

♪絶景かな 絶景かな

 

 

見事に自身の最後を歌った曲である。涙失くして聴くことができない。この歌を歌った人はもういないのだ。しかし歌は永遠に残る。永遠なんてないって歌ってるけどさ、パンタ、この歌は永遠に残るぞ。

 


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情報の出どころは全てアルバムのライナーノーツとミュージック・マガジンが刊行した増刊号からである。いつものことですが使わせていただきました。

 

 

 

 

一応「禁煙宣言書」を書いたことだし、もう少し頑張ってみよう。

 

 

 

それでは。