パンタの5曲

今日もダラダラとではあるが、6時過ぎまで眠ることができた。コーヒーを淹れ、リビングでぼうっとしていたらパンタの「ルイーズ」が頭の中で鳴った。「そうだ。パンタの5曲を書こう」とその時思った。腫れも少しひいたし、気持ちもゆったりしている。よし、書くぞ。というか、昨日一昨日と大騒ぎしていたくせにシレっと「パンタの5曲」なんて現金な奴だな、俺って。まあいいか。

 

 

ほんとは3曲の方がコンパクトで読者に伝わりやすいんだろうが、パンタの場合はそうはいきそうもない。5曲でもファンの間ではかなり好みが別れそうだ。

 

最初に僕が思うパンタの5曲を挙げてしまおう。

 

「世界革命戦争宣言」

「さようなら世界婦人よ」

「ルイーズ」

「悲しみよようこそ」

「万物流転」

 

これを見て「何だ、『銃をとれ!』がはいってないじゃないか」とか「『マーラーズ・パーラー』を選ばないお前はモグリだ」「『悲しみにようこそ』?ふざけんな!」とか他にもいろいろ言いたくなる人はいると思う。それに「悪たれ小僧」「コミック雑誌なんかいらない」「スホーイの後で」「まるでランボー」「つれなのふりや」「屋根の上の猫」「裸にされた街」「マラッカ」「夜と霧の中で」「リサイクル・デー」は今でも愛聴している。しかし5曲選ぶとなったら涙を飲んで選ぶしかないんだよ。

 

さてと。外野の声や僕の内なる声は置いておいて、パンタについて少し紹介するか。

 

パンタ(本名:中村治雄)は1950年生まれの日本のロック・ヴォーカリスト、作曲家、作詞家、俳優(ちょこっと)である。またしても1950年生まれである。僕のパイセンは現在72歳。72歳のパンタの顔面劣化は甚だしい。しかし逆に凄味を増しているとも言える。

 

彼が最初に脚光を浴びたのは1970年から5年間活動した「頭脳警察」だ。このバンド(パーカッションのトシとの2人組)のネーミングの秀逸さについては過去記事にしたことがある。「頭脳警察」。見ているだけでかっこよくない?(余談だが次に漢字でかっこいいバンドは「麗蘭」である。これも最初2人組だった)

 

hanami1294.hatenablog.com

 

hanami1294.hatenablog.com

 

頭脳警察は、新左翼全共闘全学連などによる政治活動が激化した時期の最期、1972年にレコードデビューした。タブーに挑戦する政治的な過激な歌詞とラディカルなライブパフォーマンスによって、発禁や放送禁止、コンサート会場への出入り禁止などのエピソードを持つ」

 

赤軍派の拠点校であった関東学院大学にて音楽活動に取り組んでいたパンタが上野勝輝の『世界革命戦争宣言』を読んでインスピレーションを受け、翌日のコンサートにアジテーション調のシャウトを取り入れたことから、『左翼のアイドル』として祭り上げられた」(以上ウィキペディアより)

 

『世界革命戦争宣言』が収録された頭脳警察のファーストアルバムは発売禁止となった。世の中の色々なアルバムが発禁を解かれ再発売されてもこのアルバムだけはずぅっと発禁のままだった。それが2000何年かに突如発売されたのである。僕は狂喜して購入した。

 

ちょっと歌詞を引用させてもらおうか。

 

ブルジョアジー諸君 我々は世界中で君達を 革命戦争の場に叩き込んで 

 一掃するために ここに公然と宣戦を布告するものである

 君たちの歴史はもはや わかりすぎている

 君たちの歴史は血塗られた歴史じゃないか・・・~

 

これくらいにしておこう。

 

アルバムでは主催者に「頭脳警察です!」と紹介された後にパンタが少しちゃらついたMCをする。その直後爆竹が鳴り響いた後にギターでイントロを奏でる。トシのパーカッションが絡む。そして上の(冒頭の)歌詞を叫び上げる(←こういう表現が最も当てはまる)のだ。


www.youtube.com

 

これは、発明だ。ギターをかき鳴らしながらアジテートする。書いたらこんな簡単なことだけど、誰もやってこなかった。もしかしたら明治時代の演歌師はこんな感じだったのかもしれない。パンタはウィキにも書いてあるように上野勝輝の文章を読んで「これを(静かに語るように)歌おう」と決めたが、いざ本番になって気づくと「叫んでいた」とインタビューで語っていた。ほんとのところはどうなんだろう。確信犯だったようにも思えるところだが、とにかく初めてこの歌を聴いた人はそれはびっくり仰天しただろうなと思う。それにしても今でもインパクトのあるジャケットだな。おっと50代以上の人限定になるけど。3億円事件の犯人のモンタージュ(かな?)写真だよ。

 

しかしながら僕は実を言うとあまり驚かなかった。ザ・スターリンの「先天性労働者」を既に聴いていたからだ。この曲はそれこそマルクスの「共産党宣言」をそのままパンクサウンドにのせて叫び上げるというスタイルだった。高校時代に初めて聴いた僕は衝撃を受けた。渋谷陽一は「遠藤ミチロウアジテーターとしても優秀だ」と書いていた。僕は遠藤ミチロウ、すごい!ってずっと思っていた。


www.youtube.com

 

でも「世界革命戦争宣言」を聴いた僕は、ミチロウがこの曲の影響を間違いなく受けて、そして「先天性労働者」を作ったんだと思った。モデルがあったのである。そんな風に「世界革命戦争宣言」と出会った僕だが、だからと言ってこの曲のインパクトが薄れたというつもりはない。しかし30年近く経って再発されるとは。もうこんなの聴いても若者は扇動されないと偉い人が判断したのだろうか。そこら辺の事情はよく分からない。分からないがパンタの音楽人生の始まりがこの曲だった。そしてその曲はある種の発明だった、という点で「パンタの5曲」から外せない。

 

どうしよう。1曲で2000字書いたよ。パンタは僕が思っている以上に深くて広い海なのかもしれない。でも頭脳警察のデビュー時までは書いとかなきゃな。

 

2曲目も頭脳警察からである。「さようなら世界婦人」。これもファーストアルバムに収録されている。

 

この曲はヘルマン・ヘッセの詩をパンタが勝手に訳して歌ったものだと長らく思っていたのだが、訳詞は植村敏夫という人だった。

 

~世界がガラクタの中に横たわり かつてはとても愛していたのに

 今 僕等にとって死神はもはや それほど恐ろしくはないさ

 さようなら世界婦人よ さあまた 若くつやつやと身を飾れ

 僕等は君の泣き声と君の笑い声には もう飽きた

 

 世界は僕等に愛と涙を 絶えまなく与え続けてくれた

 でも僕等は君の魔法には もう夢など持っちゃいない

 さようなら世界婦人よ さあまた 若くつやつやと身を飾れ

 僕等は君の泣き声と君の笑い声には もう飽きた~

 

 

こちらは先ほどの「世界革命戦争宣言」とは打って変わり、静かなバラードだ。そしてこれは「頭脳警察セカンド」(これも発売直後発禁となった。そして1981年頃突如発売された)にも収録されていたと記憶している。

 

当時の僕はイケイケロックを聴きたい年頃だったから「何だよ、頭脳警察がこんなバラードを歌うのかよ」と思っていた。ヘッセはご多分に漏れず「車輪の下」を読んだ。読むのが辛かった覚えがある。パンタはとにかくこの歌をことあるごとにアルバムに収録していた。僕のiPhoneにも何ヴァージョンもの「さようなら世界婦人よ」が入っている。そして今になってやっとこの曲の素晴らしさが心に沁みわたるようになった。コードは簡単だったから路上ライブをしている時に候補の1曲として考えていたが、結局は歌わなかった。それで正解だったと思う。

 

デモみたいなところでパンタが一人でとことこ前に出てきてこの歌を歌う動画がある。それはいろんなヤバい場面を潜り抜けてきた男の凄味を感じる姿だった。しかしこの曲は同時にパンタのポップな面がよく分かる曲である。「世界婦人」という既製のものにバイバイするぜという内容をシュガーコーティングされたポップなメロディで歌うこの歌こそ、後年のパンタに繋がるものかもしれない。


www.youtube.com

 

 

これはもう続けるしかないな。次は頭脳警察を解散させて作ったバンド、PANTA&HALからの「ルイーズ」からです。よろしく!

 

 

それにしても全共闘とか赤軍派とか書かれても青少年達には「は?」と言われるだけだよね。俺も別にリアルタイムで体験したわけじゃないんだけどさ。