hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

「ロウ」のA面を聴きながら妄想してみた

1976年9月末。デヴィッド・ボウイは、西ベルリンのハンザ・スタジオにいた。本当はフランスでレコーディングをしていたのだけれど、何だかんだあってベルリンに拠点を移すことになった。この時期一番のダチであったイギー・ポップも一緒だ(6月には彼のソロアルバムのプロデュースをした)。

 

 

「とにかく俺とイギーは、ドラッグ中毒から抜け出してクリーンにならなければいけない。そのためには今までと違った環境に身を置きたい。そして新作を作るのだ。フランスで作りかけていたが頓挫したので、ここベルリンでもう一度やり直すのだ。メンバーはトニー・ヴィスコンティをはじめとする馴染みのメンバー。それに加えてブライアン・イーノが参加してくれることになった。やっとあいつと仕事ができる」

 

 

「どんなサウンドになるのか見当もつかないが、ドイツと言えばクラウトロックだよな。そこはちょっと意識したいぞ。イーノもきっとこのアイディアにのっかってくれるに違いない」

 

 

 

カルロス・アロマー(ギター)、デニス・デイヴィス(ドラムス)、ジョージ・ムーレイ(ベース)は既にスタジオにいた。ブライアンもトニーもだ。それにしても狭いスタジオだな。ロスとは大違いだ。それに余計な取り巻きもいない。じゃあ早速セッションを始めようじゃないか。

 

 

・Be My Wife

「ブライアン、これ聴いてくれる?」と言い、メンバーに「『ビー・マイ・ワイフ』をやるよ」と伝えた。ブライアンは最後までじっと聴いていた。演奏が終わるとブライアンはすぐに「ベースがファンキーでいいねー。サビのところはもっともっとうねるような弾き方をすればいいと思ったよ。あとは私ならイントロにこんな感じでピアノを入れるな」と言い、カルロスにイントロを弾くよう促す。ブライアンのピアノを聴き、ボウイは「これはイケる」と思った。イーノはボウイに「このピアノは君と私が一緒に弾くといいと思う」と言った。


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・Breaking Glass

まだ他に曲はあるのかとブライアンが言うので「ブレイキング・グラス」を演奏してみた。この曲にもブライアンはすぐにアドバイスをくれる。「ギターのリフはOKなんだけど、もっとリズム隊がしゃしゃり出てくる方がよくないかな?ベースはさっきみたいにファンキーさを出しつつもっと音数を増やす。そしてスネアとバスドラをもっと前面に出していけば?」

 

 

OK、やってみようじゃないの。今度は俺も歌ってみよう。こんな感じなんだけど、どう?

 

「OKOKOK、デヴィッド、最高じゃないか。私も参加してもいいかな?」どうぞどうぞ。

 

 

何回か通してやってみた。もちろんイーノのシンセは最高にクールだった。もしかしてもう2曲できちゃった?フランスではあんなに苦しんだのに。メンバーに今日は終わろうと言ったあとに、ブラアインに言った。「ベルリンに来たんだからそういう風味も出したいんだよね」。ブラアイアンは「OK、明日試してみよう」と答えてくれた。ほんと?これだけで伝わったのかな?


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・Speed of Life

「ちょっとセッションしてみないか」というブライアンの提案から今日のレコーディングが始まった。「デニス、今日の気分でしばらく叩いてくれないか?」ブライアンの言葉にデニス・デイヴィスはすぐさま反応する。普通にエイトビートを叩いていると、ブライアンが「スネアの音をいじっていいか?」とデヴィッドに言ってきた。これこれ、そういうのを待ってたんだよ、とばかりにボウイは頷く。

 

 

おおっ!何だかインダストリアルな響きになった。いいねえ。ブライアンはデニスにプレイを続けるように言うとジョージにさっきと同じように「今日の気分で弾いてみてくれ」と言う。それを聴きながらシンセのつまみをいじり、音を決めてから自分も演奏に参加する。何だか形になってきた。しかもベルリン風味だ。昨日のあの言葉だけで通じたんだ。いつの間にかカルロスも参加している。とにかくドラムのスネアの響きが気持ちいい。あとは・・・何だろう。とデヴィッドは思案した。まだ俺のヴォーカルじゃないな。うーん・・・サックスでいくか。

 

 

ドラムス、ベース、ギター、シンセ、そして俺のサックス。完璧じゃないか。こっからどう展開させていくか。1回演奏を止めてみんなであれやこれやと試してみた。カルロスがアイディアを出すとそこからイーノがもうひと展開考えてくれた。おいおい。いい曲じゃないか。それにしてもこれに歌をつけるのは難しいな。今日はここまでにしておこう。それにしてもこれは1曲目を飾るのに相応しくないか?新しいボウイはこれですって感じがする曲になった。それにしても何気ないセッションからここまでの曲に持っていったんだからイーノはすごいな。


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・What in the World

「今日は、作りかけの歌から始めたいんだ」と言うと黙ってブライアンは頷いた。この曲もあいつなら何とか形にしてくれるだろう。どちらかと言うと今までの俺の作法で書いた曲だけど、きっと新しいものができるに違いない。

 

 

カルロス、デニス、ジョージで演奏してみる。演奏を終えブライアンの顔を見ると、うーん・・・と考え込んでいる。黙って待っているとブライアンが言った。「歌とメロディはそのままでいいんだけど、あとは全部変えてもいい?」と言ったので是非そのアイディアを聞かせてくれといった。みんなも同じだと思う。この2日でブライアンのアイディアは全部ドンピシャリとはまっている。一体どんな曲になるんだ?

 

 

「まずテンポは今の倍の速さにする。ドラムはバスドラを小刻みに入れる。それに合わせてベースも弾いてみて。ギターは何て言うのかなぁ、脈絡がないリフを繰り返すっていうのはどうだろう?例えばロバート・フリップって知ってるだろ?彼はこんな感じで弾いてるよ」とシンセで旋律を奏でる。カルロスはそれを聴きながら考え込んでいる。

 

 

ここまで聞いて早速デニスがドラムのパターンを模索し始めた。「もっとバスドラを入れてみて」とブライアン。何だかせわしない感じだな。ベースがそれに合わせる。その間にカルロスは「脈絡のないリフ」に挑戦している。俺はただ黙って見ていた。何パターンか脈絡のないリフを編み出したカルロスは、ドラムとベースの演奏に加わる。イーノはというとその演奏に満足したのかシンセのつまみをいじり始めた。その間に俺はこの速さに合わせて歌ってみる。なるほど、こんな感じか。そう思う間もなくイーノのシンセサイザーが演奏に割って入って来た。

 

 

「イギー、コーラスで入って」とシンセを演奏しながらイーノは言う。ここまでただ俺たちのセッションを見ているだけだったイギーが待ってましたとばかりに即興で「♪ア~」とコーラスを入れ始める。何回か演奏して、ランチ休憩をしてからレコーディング開始だ。それにしてもイーノは仕事が早い。もう3曲もものにしたよ。イギーは帰り道、「ブライアンってすげーな」と言ってたけれど、ほんとにそう思う。

 


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家に着く前に「『ロウ』っていうアルバムタイトルはどうかな?」とイギーに言ってみる。イギーは「『ロウ』?『ハイ&ロウ』の『ロウ』かい?」と聞く。そうだ、と答えながら自分とイギーのドラッグ中毒について考えていた。俺達はドラッグから離れる決心をしてベルリンに来たが、まだリハビリの最中だ。上手くいく保証もない。そんな不安定な気分もあったのかベルリンの街の雰囲気がそうさせるのかよく分からないが、「ロウ」という単語が昨日から頭に浮かんで離れないのだ。

 

 

まあ、このアイディアについてはまだ寝かせておこう。レコーディングはまだ続くのだ。そしてこのレコーディングでまた自分が新たなステージに立てることを確信していた。

 

 

 

                             (続くかもしれない)