秋眠日記18 ~ディランが降りてきたの巻~

問題は何時のディランを聴くか、だ。僕は1983年の「Infidels」を聴いている。まあ自分でも呆れるほど次から次へといろんなアーティストを聴いている今日この頃である。そして今朝(昨日)は気づいたらディランが降りてきたのだ。

 

多分「ベストヒットUSA」(←僕はかなりこの番組のお世話になっている)で放送された「ライセンス・トゥ・キル」のPVを観てから無意識のうちにディランのことを考えていたのだ、きっと。で、ディランブームがやって来た。いよいよ御大の登場である。ディラン、42歳の時の快作である。

 

1979年の「スロー・トレイン・カミング」でディランはキリスト教に改宗したことを高らかに歌う。その後1980年「セイヴド」、1981年「ショット・オブ・ラブ」と改宗3部作が発表され、ファンもうんざりし始めた時に突如(当時のディランにしては珍しくアルバムのリリースが2年空いた)発表されたのが「インフィデル」である。確か今時分の季節に発表してんじゃなかったっけ?その頃別にディランを聴いていなかった僕でも覚えているくらい、みんなから「ディランが戻ってきた!」と言われたアルバムであったと記憶している。みんなまずジャケットがかっこいい、と喜んでいたが、当時はダサいおっさんがサングラスをかけてアップで映っているだけじゃないかと思っていた。それにロビー&シェイクスピアがリズム隊と聞いて、「ディランがレゲエするの?」と思った記憶もある(勿論そんなことはなかったけど)。

 

僕がディランを本格的に聴き始めたのは1990年代だ。「インフィデル」はその中でも手を出すのが遅かった(2000年代に入ってから聴いたと思う)アルバムだった。中山康樹が絶賛しているのを読んで、じゃあちょっと聴いてみるか、くらいの気持ちだった。その時は「ふうん」という感想であった。それなのに、今朝から僕は「インフィデル」を聴き続けている。これも今年の耳効果(いろいろな音楽を聴いて耳が鍛えられた)なのだろうか。多分そうだろう。嬉しいことである。

 

今回、というか今朝僕が発見した曲は「Union Sundown」という曲である。恥ずかしいことに全くノーマークだった。このアルバムはとかく「Jokerman」「Don’t Fall Apart On Me Tonight」の名曲っぷりが話題となっていて僕もそっちの方ばかり聴いていた。「Union Sundown」はかっこいいロックンロールな曲である。単純なリフで最後までぶっ飛ばす。ギターはミック・テイラー。ボブは(アルバム全体でだが)ぶっきらぼうに歌いっぱなしている感じだ。それがこの曲に合っている。興味のある人は是非ご一聴ください。「インフィデル」は聴けば聴くほど味が出る傑作(さっきは快作と書いたが傑作の間違えだった)である。

 

「ジョーカーマン」についても書いておくか。スライ&ロビーのリズム隊が素晴らしい。特にロビー・シェイクスピアのベースがいい。マーク・ノップラーのギターが素晴らしい。曲はAメロBメロサビというシンプルな構成。サビがとにかく気持ちよくて何回でも聴いていたくなる。メンバーの演奏も曲も素晴らしければ、ディランのヴォーカルも素晴らしい。デビューして20年経ってもディランは名曲をモノにするのだ。初めてこの曲を聴いた僕は、その素晴らしさに気づかなかった・・・

 

次の「スウィートハート・ライク・ユー」は一転して静かなバラード。これはAメロBメロサビときて、大サビがくるディランとしては珍しい曲。隙間だらけの音の中でディランは時に早口で、大サビでは優しく暴れまくる。マーク・ノップラーのシンプルなリフが曲の空気を作っている。

 

3曲目の「ネイバーフッドの暴れ者」では、一転してロックするディラン。バックは再びシンプルな演奏に徹する。ドラムが力強い。ギターはマークとミック。これもマークのシンプルなリフが曲の空気を作っている。それにしても早口になるとディランは攻撃的なヴォーカルを聴かせてくれるな。

 

4曲目「ライセンス・トゥ・キル」は再び静かに始まる。しかしこんな隙間だらけの音でよく曲が成立するな。素晴らしいバンドだ。ベストヒットUSAで観たPVもかっこよかった。本作後「リアル・ライヴ」という作品を発表しているが、このバンドでツアーしてほしかったものだ。

 

5曲目の「マン・オブ・ピース」はロックだ。構成はシンプルで(ディランはいつもシンプルなのだが。そしてそれで名曲になるのがすごい)、ディランは力強いヴォーカルを聴かせてくれる。それにしてもやはりリズム隊が素晴らしい。この曲も隙間だらけと言っちゃあ隙間だらけだ。その隙間をディランのロックした声が埋める。ディラン、かなりロックしているぞ。間奏はミック・テイラーかな。

 

6曲目が今回僕が発見した「Union Sundown」だ。5曲目よりロックしている。通して聴くとやはりここで盛り上がる。ディランのヴォーカルは前曲よりさらに加速している。途中でドラム、ベ-スだけになりディランが歌うところは特にかっこいい。

 

7曲目が「アイ・アンド・アイ」。静かに始まる。それでもディランの声は元気一杯だ。一瞬レゲエっぽいかな?と思ったが、そんなことはなかった。この曲も2曲目4曲目同様隙間だらけの音だ。サビ(♪ア~イアンドアイと歌われる)はディランにしてはなかなかドラマチックに聞こえる。

 

8曲目が「Don’t Fall Apart On Me Tonight」。もう最初のハーモニカからして名曲感が漂っている。そしてさりげなく聴こえてくるスライドギター。構成はシンプルでいつの間にかサビに入っているが、最後の最後に盛り上がる。2曲目同様ディランにしては珍しいことだ。この曲も力強いヴォーカルでこのアルバムを締めくくる。「きのうはとっくに思い出/明日は期待どおりになんかならない/だからお前が必要なんだ」何て素晴らしい歌詞なんだろう。この声で「アイ・ニード・ユー」って言われちゃうと女性はクラクラすると思うぞ。

 

どうも「インフィデル」はディランのヴォーカリストとしての復活作だったのではないだろうか。今思うと。だから「ロックなディランが戻ってきた」とみんなが賞賛したのではないだろうか。

 

 

以上8曲42分。42分なら何回でも聴ける。なんだかんだ言って全曲の感想を書いてしまった。

 

 

サカグチ先生とは今日会った。濃い3時間半を過ごすことができた。