伊坂幸太郎について書く日が来た。とはいっても僕はそんなに熱心に彼の作品を読んでいるわけではない。読んだのは初期に限定されている。そして今日は斉藤和義に着地しなければいけない。難しそうだな。
僕にとって伊坂作品の一番のピークは映画化もされた「ゴールデンスランバー」(2007)、「アイネクライネ/ライトヘビー」(「アイネクライネ」は2007年、「ライトヘビーは書下ろし」)の2作品である。「アイネクライネ/ライトヘビー」を受けて斉藤和義がシングルCD「君は僕のなにを好きになったんだろう/ベリーベリーストロング~アイネクライネ~」を制作することになる。伊坂の作品「アイネクライネ/ライトヘビー」はその初回盤特典として付いていた。
伊坂作品は「重力ピエロ」(2003)「死神の精度」(2005)「アヒルと鴨のコインロッカー」(2003)などは読んでいたよ。面白かった。でもリアルタイムで買っていたのは「あるキング」(2009)までだ。
「重力ピエロ」「アヒルと鴨のコインロッカー」「ゴールデンスランバー」は映画も観た。「アヒル~」はボブ・ディランの「風に吹かれて」が、「ゴールデンスランバー」ではビートルズの同名曲が映画の通奏低音のように流れていた。
それなのにどうして最近とんと読まなくなったのだろうか。よく分からない。ちょうど老眼進行期だったのかもしれない。
まあそれは横においといて先に「ゴールデンスランバー」のことを簡単に書いておくか。ストーリーはウィキペディアで調べてもらうこととして、伏線の張り方、その回収の仕方が小気味よかったと記憶している。映画も良かった。最後のシーンが終わった瞬間に斉藤和義の「幸福な朝食、退屈な夕食」の新録がバーンと流れる。これには痺れた。
次は「アイネクライネ」だ。作品の経緯は何かで読んだが、とにかく斉藤和義のファンであった伊坂幸太郎がコラボすることになった。つまり伊坂が書いた小説を読んで斉藤和義が曲にするということだ。この話を聞いた時僕は不遜にも「やられた!」と思った。
というのも小説を読んで、歌詞にするという構想を大学時代に練って試行錯誤したことがあったからだ。しかし勿論ぼくにそんな才能はなかった。ちなみにその小説はアラン・シリトーの「長距離走者の孤独」(1959)だった。これを読んで「主人公のスミスはなんてロックなヤツなんだ」と思ったものだ。
さあ、ここからは妄想タイムだ。斉藤和義はどうやって名曲「ベリーベリーストロング」をものにしたのか。メイキングものが大好きな僕としてはそれを想像することもまた楽しい行為だ。
「アイネクライネ」読了後、おもむろに向かった先にはドラムセットがあった。椅子に座り何となくいろんなパターンのリズムを刻んでいるうちに、ドン、パン、ドン、パン、というシンプルなリズムになった。テンポをもう少し速めてみようか。またドン、パン、ドン、パンを繰り返していくうちに、「ララララララ~」とハミングも混じるようになった。これは早口になるし、情報量も多くなるな、と思った斉藤はもう1回本を読み始めた。使えそうなところは線を引いた。線を引いたであろう一箇所を引用してみよう。
バインダーを持った彼女の手を見ていると、その親指を、手首のほうに下がったあたりの肌に、『シャンプー』とマジックで書いてあるのが目に入り、特段、何かの感慨があったわけでもないが、思わず、『シャンプー』と僕は呟いてしまう・・・・。
これは使えるなと思った斉藤が書いた歌詞はというと、「彼女の親指あたりに/マジックのメモ書きで『シャンプー』/俺は別に何の気もなくそれを見て呟いた『シャンプー』/・・・」
「メモ書き」「別に何の気なく」等の斉藤語で歌詞が作られている。「僕」が「俺」になってもいる。そして「シャンプー」で一旦センテンスを区切る斉藤和義のセンスは素晴らしい。
この出来事の前後を肉付けしていきAメロを創った斉藤は、いよいよサビをどうするか考え始める。しかしもう曲は転がり始めている。そう難しいことじゃない。もう一度読んで、ある一節に目をつける。
「ハプニングだよ、ハプニング。だけど、すげえよな。俺、すげえ助かった。これで、俺と彼女の繋がりは」とも言った。
「繋がりは?」
「ベリーベリーストロングになったわけだからよ」
「何で英語なんだ」
「まあな」
ここは間違いなく歌詞に選ばれる箇所ではある。であるがこの言葉をサビにもってくる斉藤和義。やっぱり売れるロックシンガーは違うね。
斉藤は、
「ベリーベリーストロング/胸に/鳴り響くティンパニー」
「ベリーベリーストロング/強い絆の話だよ」
「ベリーベリーストロング/ああつながってる誰かと」
「ベリーベリーストロング/いつどこで会う?」
という歌詞をつけた。
メロディと「ベリーベリーストロング」は同時にできた。と思われる。あとは一気だ。
出来上がった「ベリーベリーストロング」を聴いて嬉しかっただろうなあ、伊坂幸太郎は。その時のことは二人の対談本の中で詳しく書かれていた(ような気がする)。
伊坂幸太郎と斉藤和義とのコラボレーション作品はこうして出来上がった。
妄想タイム、終わり!
ああ、楽しかった。