スターリンが「Fish Inn」をリリースした後に行ったコンサートに行った時、僕は「無理矢理のる」ことをやめた。僕が大学生だった頃、スターリンやストリート・スライダーズの活動が活発になり始めた。彼らのライブに行った時は、ただもうむやみやたらに前にダッシュしてもみくちゃになって踊りまくる人たちの一員だった。しかし、スターリンの「Fish Inn」を聴いて、「ミチロウは今までとは違うところを見ているのかな」と感じた。特にタイトル曲は暗く陰鬱でパンキッシュなところは微塵も感じられなかった。今までにも「虫」や「おまえの犬になる」等暗くてのれない曲はあったが、どうもそれとも違う。だからタイトル曲の「Fish Inn」はあまり聴かずに他の曲ばかり聴いていた。他の曲も暗かったが「虫」等に通じる曲だったからそれらばかり聴いていた。
そして迎えた「Fish Inn」コンサート。どんな曲が演奏されたかはほとんど記憶にないのだが「Fish Inn」が演奏された時の印象だけは強烈に残っている。あまりにも静かな、今までのスターリンのコンサートでは見られなかった空気がホール全体を包んでいた。その時僕はステージに向かって行くこともなくただそこに突っ立っているだけだった。そして思った。コンサートでは何をしても何をしなくてもいいのだと。立ち尽くすしかない、そんな曲もあるんだと思い知らされた。それからの僕は、コンサートに行って立ったり、前に向かってダッシュしたりすることをしなくなった。
僕の中で「Fish Inn」はアルバムを代表するいい曲になった。
因みに、曲が終わると力いっぱい拍手をするようになったのは、ミチロウのソロライブの時からである。ほんとに心の底から拍手をしていたなぁ。
