hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

不審者対応訓練

先週の金曜日のことである。自分の教室でぼ~っとしていたら教頭がやって来て、「hanamiさんに頼みがあるんだけど」「来週月曜日にある避難訓練なんやけど」「不審者に対応する役をやってほしいんや」

 

 

「うわぁ~」と僕は言った。昨年のことを思い出したからだ。昨年はサブとしてこの任を務めたが、ただただいるだけで、何の役にも立てなかったのだ。要するにただのでくの坊だったわけだ。それが今回はメインだとぉ~。俺にやれるのだろうか?いや、やるしかないんだけどね。

 

 

日曜日には妻に話して如何に対応していけばいいか、どんな言葉かけがあるかについての知恵を拝借していた。今朝は夢まで見てしまった。何で俺、こんなにテンパってるんだ?

 

 

というわけで、2限目の4年社会を1限目に回し、避難訓練に備えた。1限目は気もそぞろだったな。いつもより早く授業を終え職員室に行き、最後のイメトレをした。相棒の事務の人は軽口を最後まで叩いていた。

 

 

さて、玄関からチャイムが鳴った。不審者の登場だ。「何だか様子が変なのでhanami先生も付いてきてください」。僕はすぐに立ち上がり、事務と2人で玄関に向かった。

 

 

最初の対応は事務の人がしたが、こちらの異状を伝えに職員室に戻っていった。僕と不審者(不審者役の警官。これからはFと呼ぶことにしよう)2人になった。Fは最初の対応で4年生の子どもに渡したいものがあると言っていたな。どうしようか、と考えていたらFはわざわざ靴を脱いでスリッパを履いたので、じゃあこれは?っていうんで、「来校者には名前を書いていただいているんです」と来校名簿を見せた。Fは戸惑ったようだ。そんなこと言う先生は今までいなかったのかな。

 

 

「じゃあ、これで」と書くふりをしたので、「これもお願いします」と言って、名札を渡した。更にFは戸惑ったようだった。黙って名札を受け取ったが気を取り直したのか、「今から教室へ行く」と強い調子で言った。

 

 

「いやいや、こんなご時世なんで、それは困ります。ご理解ください。校長室がすぐそこにありますからそちらに入って下さい」と言った。しかしFはズンズン前に進んでいく。僕の声は上ずりっぱなしだ。しかし、教頭からは3階まで誘導すればいいと言われている。まあこのままやってみよう。

 

 

「お子さんは4年生って言ってましたよね」「おお」「僕は4年生2クラスとも授業に出ているんですけれど、石川さんという子はいませんよ」「何言っとるんじゃい、おるんじゃ」「じゃあ確認しますね。ちょっと職員室に行って確かめてきてくれる?」と応援の先生に言った。

 

 

その後もとにかく話しかけて(「授業中なので他の児童が驚くんでこちらから呼び出しますよ」「何を持ってこられたんですか?」)少しでも歩くのを遅くするよう心がけた。

 

 

そして3階に着いた。僕は「横に空き教室があるからそこでお待ちいただけませんかねぇ」と言ったが入ろうとしない。そしたら急にFは素に戻って「まだ放送は入ってませんよね」と言った。僕は一瞬分からなかったが、児童への避難を促す放送だと分かって、こちらも素に戻り「ええ、入ってませんね」と答えた。「じゃあ、少し下まで戻りますか」とF。

 

 

何だか締まらない訓練だなあと思いながら2階の踊り場まで下りていった。Fの方はまだ素のようだったが、僕はもうさっきの不審者対応をしている先生にスイッチオンしていた。「お母さんは仕事ですか?」

 

 

Fもすぐにスイッチが入り、「ああ、そうや」と答えた。そして何やかんや言いながらもう一度3階の方へ上がっていった。遠くで放送の音がしたような気がした。僕の緊張はもうマックスだ。誰か助けてくれ。

 

 

しかし、応援に来た若い先生達はぐるりと僕たちを取り囲んでいるだけだ。(昨年不審者対応をした)4年担任が出てきた。「あれっ?どうしたんですか?」。そう言いながらさりげなく廊下に置いてあった給食用の長机を動かし始めた。

 

 

「お前らなんで何人も来て俺を取り囲むんや」。そう言いながらFは上着のポケットに手を入れた。次の瞬間(レプリカの)包丁が見えた。おいおい、そこまでやるんかい。

 

 

「ちょっと待ってくださいよ。それは危ないですって。しまいましょうよ」と僕。そして長机をさらに自分の方に寄せた。僕は「少し距離を取りましょう」と若い先生に小さな声で言った。しばらくにらみ合いが続いたが、Fは包丁をポケットに収め、「会わせてくれんのならもう帰るわ」と言った。

 

 

ああ、それがいいですそれがいいです、と思いながら階段を下りていった。1階まで下りて校長室前まで来た。そしたら向こうからこちらに向かってくる6年児童がいるではないか。肝を冷やした僕は慌ててFに「校長室に入りましょう」と言った。Fは「なんでや、あの中に俺の子どもおるかもしれんがいや」と言い進もうとする。それを阻む僕たち。すったもんだしているうちに人の気配が消えた。6年児童は速やかに2階から避難したようだ。

 

 

玄関まで行くとFが「それではここまでということにしましょう」と普通の警官の顔に戻って言った。僕も素に戻って「ありがとうございました」と言った。そして2人で体育館に向かった。

 

 

「『警察に通報しますよ』とか言った方がよかったんですかね?」と僕が訊くと、警官は「いや、相手を刺激する言葉はまずいです。それより、すんごくよかったです」と言った。「いえいえ、全然でしたよ」と言うと警官は「すごく落ち着いた声と対応でした。中にはアワアワして何も言えない先生もいらっしゃるんですけど、今日は大丈夫でしたよ」と言ってくれた。

 

 

その時である。喜びも束の間、さっきの6年生たちが避難してきた。つまり、今まで2階の廊下で待機していて、安全を確認してから体育館に向かったようである。「あちゃー」と思いながら、「避難するタイミングって難しいですね」とだけ言って警官とお別れした。

 

 

自分の教室に戻ってドキドキしている心臓をなだめていたら、教頭が入って来た。「〇〇さん(不審者役の警官)、すんごく誉めとったよ。落ち着いた対応やったって」。ありがたい言葉だ。それに僕のところにすぐに言いに来てくれた教頭はやはりすごい人だな、と思った。なかなかすぐには来れないよ。うん。やはり4月から校長だな。

 

 

 

というわけで今日最大のミッションは終わった。残りの3限目から6限目はもう抜け殻状態だった。でも無事終わってよかったな。

 

 

そんなことより、僕みたいなロートルにこんな役をさせても無駄じゃなかろうか、と思った。若い人たちに経験させてあげないといけないんじゃないかなあ。僕が授業をしている時にそのクラスの担任が対応するっていうことも可能なんだし。なんて思ったりもした。

 

 

以上で不審者対応訓練の模様を終わります。

 

 

 

それでは。