hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

妄想小説~キヨシと俺②~ 忌野清志郎がキヨシローになるまで

キヨシとは古い友達だ。何年前になるか、同じライブハウスに出演していたのをきっかけに少しずつ仲良くなっていった。楽屋で他のバンドの連中は、女の子や麻雀の話ばかりで、音楽の話はしていなかった。俺は、そういうのは嫌いだったし、好きな音楽のことを誰かと話し合いたかった。そういう友達はいなかった(相棒の加奈崎さんは、俺にとっては先輩だ)ので、いつもギターを持って部屋の隅にいたものだ。

 

初めてRCのステージを見た時、俺は鳥肌が立った。忌野清志郎、あいつと話したいと痛烈に思った。しかし、あいつも俺と同じで、部屋の隅にいたもんだから、しかも近づくなオーラ出しまくりだったから超内気な俺としたらどうしても話かけづらかった。それでもある日のRCのライブで何の曲だったろう、「春が来たから」だったかな、その曲にいたく感動した俺は、どうしてもそれだけは清志郞に伝えたかった。

 

「『春が来たから』、すごかった。」思い切って俺は清志郞に話しかけた。
「そう?それは嬉しいな。キミはよく分かってるね。」清志郞はこう答えた。
そこから少しずつ話すようになった。楽屋の場所も同じ隅っこに座るようになった。オーティスの歌い方はこうで、サム・クックのあの曲はこういうことを言いたかったんじゃないか、真のオリジナルとは?などずっと自分達の好きな音楽の話をしていた。呼び方も、本名の「キヨシ」、あいつは俺のことを「チャボ」と呼び合うようになっていた。


そうこうするうちにお互いの家にも行き来するようになり、一緒に曲を作ったこともあった。あいつは女癖は悪かったのに、俺達の間では、何というか下ネタを話すことは一切なかった。あの当時男同士で下ネタを話すヤツはどうも信用できない、というのが俺の持論だった(今でもそうだ)。俺にとってはそのことがこんなに長く付き合うことになった理由の一つかもしれないなと思っていた。

 

次の日、俺は9時頃に起き、コーヒーを飲んでからヒサコに「ちょっと行ってくる。」と言っていつもの楽器店に行った。やっぱりヒット曲を作るにはピックも新しくしなきゃな、というのが俺の理屈だった。しかし逸る気持ちはどうにも抑えられない。何となくギターを見たり試し弾きしたりしながら昼過ぎまでいた。どうせキヨシが来るのは夕方だ。コカコーラを2本持って。

 

家に帰ると、たまげたことにキヨシがいた。もう来たのか。ヒサコと仲良くコカコーラを飲んでやがる。あれっ。今日は3本だ。1人1本かよ。まぁ、よほど気合いが入ってるってことだろう。

 

「車を題材にした歌にしたいんだ。今度はゴキゲンなロックナンバーを作ろうと思うんだ。」
キヨシはそう言ってノートを取り出した。そこには、「エンジンいかれちまった。」「つぶれちまった」「ポシャるまで」といった言葉が並んでいた。ん?何だか俺達が普段遣っている言葉遣いじゃないか。なるほど、今回はこういう言葉を遣うんだな。この言葉遣いで「売れる」「ゴキゲンなロックナンバー」を作るんだな。じゃあ俺もひとつ思い切って提案してみるか。
「キヨシ、こんなのどう?」D→Dsus4→D D→Dsus4→D A→G→D とリフを弾いてみた。
イカしてる。」キヨシが「そのまま続けてくれよ。」と言ったので、DAGD DAGD と続けてみた。キヨシは、何やらぶつぶつとつぶやいて歌詞を探っている。
「何をしたらエンジンはいかれるんだ?」
「キミの車のサニーのことだろ?そりゃあ雨に弱いだろ?」
「さえてるねぇ、チャボ君。」
このままAメロのコードの歌詞を決めていった。
ちらっとキヨシのノートを覗いたときに「バッテリーはビンビンだぜ」というフレーズが飛び込んできた。
「バッテリーはビンビンだぜ」?
俺は、車と女をかけてセクシャルな意味も込めて作っていることには気づいていたので
「キヨシ、ホントにいいの?この歌詞で。ヒット曲を作るんだろ?」と言ったら、
「何言ってるの、チャボ。俺がさだまさし松山千春みたいな歌作ると思う?」
と切り返された。
なるほど、魂は売らずに自分らしい曲を作ってバンバン売ろうぜってことか。それにしても下ネタを言わない俺達の間ではギリギリの歌詞だな。

 

キヨシは「どっからこんなリフが出てきたの?」と聞いたので、種明かしをした。
「スタートミーアップをイメージしてモットのあの曲のイントロをシンプルにしていったんだ。」
「なるほど!さすがだねぇ。サビのコードは?」 
「そこはまだ分かんない。」
しばらくああだこうだやってみて、俺が何気なくGAとコードカッティングすると、キヨシは、
「チャボ、それいいじゃん!それ使おうぜ。見せてもらうさ~の後にGA。その後、その後!」
キヨシは高ぶった表情で俺を見ている。俺は、ジャジャ、ジャジャ、ジャジャ、ジャジャ、ジャジャーン、ジャッ、ジャッと弾いてみた。D→A→G→A→D→GAだ。
すぐにキヨシは歌い出した。「お前に乗れないなんて」「発車できないなんて」とどこまでもセクシャルにキヨシは言葉を紡ぎ出す。完璧だ。その後も、車のどの部品を歌詞に使えるかいろいろ話し合った。「マフラー」「ワイパー」「ライト」等々。「ラジオ」が使えるとキヨシが言ったところで、一服することにした。