月曜日は、YouTube番組ではお喋りな人が多いと書いたが、今は反省している。僕もほとんど毎日毎日愚にもつかない駄文を書いてきたのだ。これもお喋りに近いものがある。特に何かの役に立つものでもないし、新しい見方を提示しているわけでもない。只々自分が思ったことや体験したことを書き綴っているだけだった。いやあ、迂闊なことは書けないな。全部自分に跳ね返ってくることに気づいた次第である。
注文していたアントニオ猪木と桜庭和志のDVDが届いたので早速観た(昨日のこと)。まずは猪木の行った異種格闘技戦を観た。異種格闘技戦って何だ?と思われた方がいると思うが、ここは省いて話を進めよう。
異種格闘技戦。今の目で見るとそれはそれは異様な試合だった。総合格闘技などという言葉もない時代の「ぎこちないプロレス」だったように思う。観たのは、
VSウイリエム・ルスカ(柔道)
VSザ・モンスターマン(マーシャルアーツ)
VSチャック・ウェップナー(ボクシング)
VSカール・ミルテンバーガー(ボクシング)
VSレフトフック・デイトン(マーシャルアーツ)
VSショータ・チョチョシビリ(柔道)
VSショータ・チョチョシビリ(柔道)
の7戦である。そのうちカール・ミルテンバーガー戦は、ドイツのフランクフルトで行われた。それ以外は日本だ。
それで何が異様かというと、相手はプロレスを知らない格闘家なのに、やっていることはプロレスだというところが異様なのだ。つまりは、猪木が相手だと全てプロレスになってしまうのである。それはまあ当然といえば当然だ。試合は1試合を除いて全て新日本のリングで行っているから、プロレス的空気にはなるだろう。しかし、相手はプロレスの素人なのだからちぐはぐさは否めない。この噛み合わなさが(今観ると)楽しい。当時の観客は何を見ているのか(見せられているのか)よく分からなかったに違いない。僕もリアルタイムで観ていたが、よく分からなくてイライラしたものだ。試合をする方(まあ試合を作っているのは猪木だが)も手探りの状態でやっていたのだろう。
初戦こそ、プロレス技として華やかなバックドロップ3連発でルスカを仕留めたが、後の試合は地味な逆エビ固めやギロチンドロップ、頭突き等の技で勝っている。これでは勝ったという事実だけが残るだけで、勝つまでのプロセスを楽しもうとしていたお客さんにカタルシスを与えられないだろう。
猪木サイドから言うと、「これこそが本物の格闘技なのだ。だから逆エビや頭突きなどのシンプルな技でこそ勝利を掴むことができたのだ」といったところだろうか。もうひとつ猪木が実際に言っていた言葉が「プロとアマの違いを見せつける」である。これは一言で言って「スタミナ」のことである。スタミナというのは、観客に見られるスタミナ、という意味である。アマでは所謂観客はいない。金を払って試合を見るのが観客だ。単なる試合と客から金をとって見せる試合との違いは計り知れないと思われる。だから、アマ選手がプロレスのリングに立つと結局はプロレスラーのスタミナに負けてしまうのだ。いつも試合を見られているが故のタフさというか。
もっと言うと異種格闘技戦は、ボクシングとマーシャルアーツという打撃系の選手との試合が多かったが、猪木はそういった試合では相手の攻撃を受けすぎている。自分の身体の耐久力に自信があったのもあるだろうが、防御の仕方をあまり練習してこなかったせいもあるのだろう。そのためかなり打たれまくっている場面が多いが、ダウンすることは少なかった。これは、ボディへ攻撃されることは仕方ないとして顔面だけはガードしていた結果だと思われる。しかし、ボクサーは思いっ切り横っ腹にパンチを打っていたのによくKOされなかったものだ。精神面でのタフさと身体の打たれ強さ、これが僕の言う「スタミナ」である。
猪木が負けたのはショータ・チョチョシビリ戦である。この日は新日本というかプロレス界が初めて東京ドームで興行した日である。そのメインを張ったのがこの試合だ。ソ連の格闘家を来日させ、日本のレスラーと対戦させた手腕はさすがである。
序盤、勿論プロレスを知らないチョチョシビリは腕ひしぎをかけ、(思わず)猪木の左腕を破壊してしまう(2R)。今だったらこれで試合はストップだ。しかし猪木は歯を食いしばって戦い、5Rでチョチョシビリの裏投げ3連発でKOされた。かつてルスカをバックドロップ3連発で仕留めた猪木が同じ柔道家のチョチョシビリの裏投げ3連発でKOされるという、非常にプロレス的な終わり方をした試合だった。
これについては上手く言えないが、猪木はバランスを重視したのだと思う。東京ドーム興行というギャンブルに勝った猪木と新日本プロレス。ソ連の格闘家を招き、観客を驚かせたこと等、打つ手打つ手が全て上手くいった。そしてメインで日本人、つまり猪木が勝ったら、客は喜ぶだろうが、衝撃性は薄れると感じたのではないだろうか。これをもって、だからプロレスは八百長だ云々と言った声を上げる人は無視しよう。猪木は常にお客さんを第一に考えて試合をしているのだ。そのためには、自分の試合もコントロールする。それでいいじゃないか。腕を壊された時も、頭の中はどういう負け方にするかでいっぱいだったに違いない。そしてそれを実現した。見事な負け様だった。これをもって東京ドーム興行は大成功を収めることになったのだ。猪木が勝っていたら興行のインパクトは半減していただろうと僕は思う。
それにしてもチョチョシビリ戦の時の猪木は全盛期をとっくに終えていた。体つきが全然違う。特に足の太ももなんかはげっそり肉が落ちている。それでもここまで戦ったのは凄いと言わざるを得ない。
全盛期の、つまりチョチョシビリ戦以前の格闘技戦にも触れたかったが、これでお腹いっぱいだ。今日はプロレスの名勝負編を観ることにしよう。
いやあ、遂にプロレスに手を出してしまったな。これはしばらく続きそうだ。