ポールは警官を見て不敵に笑った

~ゲット・バックプロジェクトは60時間以上の映像と150時間以上の音声を残した。編集に際し、様々な選択を余儀なくされた~

 

1月26日日曜日。セッション17日目。

 

~アルバムと実現微妙なショーを目指して16日。1月末までに終了させる必要がある。最新案は、自社ビルの屋上のライヴ。日程は3日後である・・・~

 

リンゴがピアノで「オクトパス・ガーデン」を弾いて歌っている。「ここまで」と最初のヴァースを歌い終えるとジョージが次のヴァースをリンゴに丁寧に教える。和やかだ。ジョージ・マーティンも来て合いの手を入れる。ジョンはドラム担当だ。そこにポールが登場する。リンダの連れ子のヘザーと一緒だ。リンゴは彼女に優しく接している。

 

「レット・イット・ビー」に取り掛かる。ポールはリンゴに細かい指示(「もっとオフビートで」)を出す。不満そうなリンゴ。そしてヨーコが来ちゃった。また「あれ」を始めると、その後でヨーコの真似をするヘザー。思わずジョンが「(おう、まるで)ヨーコ(みたい)!」と叫ぶ。ジョージ・マーティンが「他の曲は?」と聞くと「ブルー・スウェード・シューズ」等のロックンロール・ナンバーをやり出すジョン。その後やっと「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」をやり出すビートルズ。ジョンはジャズマスターを弾いている。ポールがそのジョンに注文を出す。ジョンの目が怖い。録音したものを聴いた後、2人のジョージが意見する(「もっと簡素に」)。頷くポール。

 

 

1月27日月曜日。セッション18日目。

 

ジョージがピアノで「オールド・ブラウン・シュー」を弾く。ドラムで合わせるポール。笑みを浮かべるジョージ。その後「レット・イット・ビー」「ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード」「オー・ダーリン」「ドント・レット・ミー・ダウン」のセッション。「ドント~」の後、ジョンが嬉しそうに「ヨーコの離婚が成立したよ!」と言う。

 

その後「ゲット・バック」でやっと本気の演奏を聴くことができる。ここまで来るのに長かったなあ。

 

 

1月28日火曜日。セッション19日目。

 

ライヴの話をした後、セッション。「サムシング」「ラヴ・ミー・ドゥ」「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」をポール抜きで練習する。ジョンはポツリとアラン・クラインのことを話し出す。「僕の面倒を見てくれることになった」と。困惑するジョージ。「アイ・ウォント・ユー」の後、ジョンが「アラン・クラインが来た」と言う。ポールは露骨に嫌な顔をする。

 

 

1月29日水曜日。セッション20日目。

 

アラン・クラインについてジョン、ジョージ、リンゴ、グリンがひそひそ話をしている。嫌な感じだ。しかも明日のライヴのことでまだ揉めている。ポールは観客の前でショーをやりたいみたいだ。ジョンは「明日、どうするつもり?」「明日やらないのはバカげている」「7曲だけでもやろうよ」と言い、どんどんポールを追い込む。

 

屋根に上がったビートルズ。ジョンは「やらなきゃいけないならやる」、リンゴとジョージは「やりたい」と言う。

 

スタジオに戻り、やれる曲のタイトルをジョンが歌う。これがかっこいい。しかし、その後ジョージがジョンにソロアルバムを出したい旨を告げる。「お前は何を言ってるんだ」というようなジョンの顔。午後はおふざけタイムだった。最後にヨーコが「結局明日やるの?」と聞くとポールが「多分ね。やるよ」と答える。さあ、いよいよだ。

 

 

1月30日木曜日。ルーフトップ・コンサート。

 

カメラは10台用意されていた。そのうち5台は屋上に、その他は通りや向かいのビルに設置する。受付には(またしても)隠しカメラが設置された。

 

4人は下の階に集まっていた。まだ屋上での演奏をためらっているらしい。

 

しかし。

 

ポールが来た。リンゴとビリー・プレストンが来た。ジョージが来た。ジョンが来た。

 

5人で最終チェックをする(「ゲット・バック」を少し弾いてみる)。その音を聴いて「何事?」と上を見上げる通行人。

 

カウントが聞こえた。「ゲット・バック」だ!続けて2回演奏する。1回目はジョンの指が(寒さのあまり)動かなかったが、2回目は少しほぐれたようだ。続いて「ドント・レット・ミー・ダウン」だ。ジョンのヴォーカルは最高である。下に警官がやって来る。続いての「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」は、アルバム「レット・イット・ビー」に収録されたテイク。警官がスタッフに詰め寄る(「数十分で30本以上の苦情が来ている」「建物に入るよ」「逮捕するかもしれない」)。のらりくらりと、しかし必死で止めるスタッフ。下に観客、上の建物にも観客が集まる。演奏と同時にこんなやり取りも映されているから、臨場感たっぷりだ。

 

続く「ワン・アフター・909」もアルバム「レット・イット・ビー」に収録された。それにしても、寒そうである。そして「ディグ・ア・ポニー」もアルバムに収録されるほどいい出来だった。この間、マル・エヴァンスは必死に警官と相対する。結局PAを切ることで合意した。ジョンは嬉しそうだ。とちっても舌を出して誤魔化すところが可愛い。

 

ビルの下はもうすごい人だかりである。屋上から通りを見下ろし様子を確認するメンバー。「アイヴ・ガット・ア・フィーリング」はビリー・プレストンの貢献大だな。ポールものってるよ。リンゴは赤いレインコートを着ている。前から気になっていたが、スタジオにいる時からスネアドラムにタオルを敷いている。ミュートするためなのかな?「ドント・レット・ミー・ダウン」の2回目の時に警官が屋根の上に来る!ポールは後ろにいる警官に気づき、「フゥー!」と歌い、不敵に笑う。ジョンも警官に気づいた。すごいシャウトを聴かせてくれる。ポールの方が警官に対して挑戦的になっているように見えた。

 

また「ゲット・バック」をやるがジョンが途中でやめる。音が出ていない。しかし演奏を止めない他のメンバー。ポールは最後アドリブで「怒っているぞ 逮捕するって」と歌う。ジョンがオーディエンスに挨拶した後、「オーディションに合格したかな?」という言葉でライヴは終わる。皆が皆達成感ありありの顔をしている。警官たちは去った。

 

下に降り、プレイバックを聴くみんなの顔は満足気だった。最強の4人プラス1人だ。ポールはまだ、スタジオでやりたそうだったが、録音は翌日となった・・・。翌日もスタジオに入り、「トゥ・オブ・アス」等をモノにしたビートルズであった。

 

 

 

 

ライヴだけを観てもこれほどの感動は味わえないだろう。ライヴに至るまでの長い長いセッション、ディスカッション、メンバー間の気まずさ、そんな諸々を乗り越えたことを確認したうえで観るからこその感動的なライヴ演奏だった。素晴らしいライヴだった。どんな時期であってもビートルズは世の中の人みんなを幸せにする音楽を奏でることができるバンドだったんだ、と思い知らされた。

 

 

それにしても、だ。ピーター・ジャクソン監督はよくこの気の遠くなるような作業をやり通すことができたな。彼が「ビートルマニア」だということを抜きにしても、だ。この作品はビートルズ後期の正史として位置づけられ、これからもたくさんの人が観るに違いない。

 

 

 

あー疲れた。頭がカラッポになったよ。なんも考えたくないな。