その男の名は、デヴィッド・ヨハンセン。彼の音楽キャリアは「ニューヨーク・ドールズ」から始まった。
先に彼のカメレオンぶりを書いてしまおう。
ニューヨーク・ドールズ(ロックンロール!)
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ソロ活動(少しシティポップっぽい要素もあり)
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バスター・ポインデクスターに変身(キャバレー・シンガーとして君臨)
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ハリー・スミスと一緒に活動(カントリーブルースを歌う)
その間2006年にニューヨーク・ドールズのニュー・アルバムが発売されている。
ニューヨーク・ドールズでは、顔に毒々しいメイクを施し、キワモノ扱いされたデビューだったと思う。しかしプロデューサーはトッド・ラングレンで真っ直ぐな(?)ロックンロールというかパンクの元祖というかそんなサウンドを鳴らしていた。見た目は毒々しいけど音はそんなでもなかったので、僕は熱中することはなかった。何よりデヴィッドのポップさがあんまり僕を刺激しなかったのだ。
その後グループは解散してそれぞれで活動し始めた。デヴィッド・ヨハンセンはソロアルバムを4枚出している。4枚目はライブアルバムで、僕としては珍しくサウンドストリートを聴き、松村雄策のレビューを読み、買った。今聴くと一番いいのは最初に演奏するアニマルズメドレーである。エリック・バードンになり切って歌っていてなかなか楽しい。2枚目、3枚目からのナンバーもパワーアップしている。最後はニューヨーク・ドールズ時代の「パーソナリティ・クライシス」で締める。このアルバムがアップルミュージックにないか随分と探したのだけれど、当初はなかった。数年前に発見した時は嬉しかったな。
ここまではよかった。頑張って活動しているな、と思い、僕も彼の良さに気づき始めていた。しかしあろうことか続いてのデヴィッドのプランは何て言うのかなあ、、、パーティー路線?ディナーショー路線とでも言えばいいのだろうか。まあ楽しい音楽を奏でるようになったのだ。これは当時聴いていない。今聴いているがもともと彼はこんなポップな野郎だったのだろう。髪をリーゼントにしてバスター・ポインデクスターというキャバレー・シンガーという人格になり切って歌っている。それはそれで潔いかな、という感じだ。悪くない。アメリカ人もここへきてデヴィッドのことをスタイルは一貫してないけどシンガーとして認めるようになったのではないだろうか。カメレオンでもいいと。
そしてつい最近知ったのだけれど、今度はハリー・スミスと組んでカントリーブルースを歌う人になったのだ。正直こういうのも歌えるんだ、と思ったし、歌おうと思ったんだ、と思った。いや実に楽しそうに歌っているよ。暗さはない。
でもこの人が歌うと何でも楽しげになっちゃうんだよな。シリアスさというものをあまり感じさせない。そこはデヴィッドが拘っているところなのかもしれない。「そんなにシリアスになるなよ。音楽だろ?」と、僕に迫って来る。
「でも貴方には整合性ってものがないんですか?」とでも言おうものなら「ガハハ」と笑われそうだ。
生粋のシンガーなんだろう。そしてサウンドや人格はその時自分がいいと思ったもので結構。それで客が楽しんでくれてるじゃないか。OKじゃん。以上。なのだろう。
だから人は彼がどんなに音の嗜好性が変わっても驚かないし、逆に面白がっている人もアメリカには多いのではと感じる今日この頃であった。