hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

「ガダラの豚」再読

中島らもである。

 

それまでに読んでいた中島作品は、小説では「お父さんのバックドロップ」(1989)「今夜、すべてのバーで」(1991)「永遠も半ばを過ぎて」(1994)「水に似た感情」(1996)「空のオルゴール」(2002)「酒気帯び車椅子」(2004)、エッセイでは「心が雨漏りする日には」(2002)「牢屋でやせるダイエット」(2003)「異人伝」(2004)などなどである。他はもう思い出せないが家の本棚の一角には中島らもコーナーがあった。

 

そして、「ガダラの豚」(1993)である。文庫版で読んだから1996年のことになる。「ガダラの豚」以降の「永遠も半ばを過ぎて」(1994)「水に似た感情」(1996)は読んでいたのに何故これを読まなかったのかが不思議だ。妻が先に読んでいて「面白いよ」と言ってくれたのにもかかわらず、すぐには手を出さなかった。

 

この作品を一言で表すと・・・「らも的要素を思い切り、かつ冷静にごちゃまぜにしたお話」とでもいえばよいだろうか。超能力、オカルト、奇術、新興宗教、洗脳、薬物、呪術、密教、アル中、格闘技など、中島らもがこれまで大真面目に取り上げてきた題材を全部詰め込み、大きな物語にした、という印象である。文庫版は3巻で物語の性質上とても分かりやすい構成になっている。

 

1巻目が主人公である大生部多一郎が、娘を失ったことで神経を病み新興宗教にのめり込む妻の逸美を奇術師のミスター・ミラクルとともに助け出す「新興宗教編」。2巻目がテレビの特番取材で昔行ったアフリカの呪術師ばかりが住む村、クミナタトゥに行き、大呪術師バキリと対決し、最大の禁忌(バキリのキジーツ、シオリを助け出す)を犯しながらも命からがら日本に戻る「アフリカ篇」。日本に戻った大生部だが、バキリもシオリを取り戻しに日本に来ていた。そしてテレビ番組で対決し、テレビ局を舞台に大立ち回りをする「東京スペクタクルドタバタ編」。

 

最後に書かれている参考文献がまあすごい。さっき書いた分野の本がずらりと書かれている。それに文庫版の解説は民俗学者だ。だからということもないが、この物語の白眉は2巻目の「アフリカ篇」になろうかと思う。「呪い」というものがどういう構造で成り立っているのかが分かりやすく描かれている。と同時にお話としても大変面白い。

 

学術的にもしっかりしたものを書く冷静さと、それをもぶち壊す物語の力が一体となった時、中島らもの世界がぶわっと広がる。このバランスが絶妙なのだ。「ガダラの豚」は。どちらか一方に傾きすぎると、「お勉強」のような本になってしまうし、エンターテイメントに走りすぎると悪い意味で荒唐無稽すぎる本になってしまう。

 

ガダラの豚」は、第47回日本推理作家協会賞を受賞している。なんで推理小説?と思うがここしか収まる枠がなかったのだろう。「今夜全てのバーで」は吉川英治文学新人賞なのに。そこらあたりが中島らもという作家の面白さだったのかもしれない。

 

 

ついに今日で今年度が終わる。明日からは新年度だ。