hanami1294のブログ

現在休職中の小学校教員のつぶやきです(只今復職中)。

「二進法の犬」花村萬月

僕が花村萬月の文章を初めて読んだのは、彼のエッセイ集の中に収録されていたルー・リードについて書かれたものであった。ルー・リードのこと、とりわけ「ワイルドサイドを歩け」のことを肯定的に書いてあったので、うん?これは、と閃き、どんな小説を書いているか探りにいった(本屋で立ち読みしていた頃だ。懐かしい)。

 

その中にやたら分厚い文庫本があった。それが「二進法の犬」(1998)である。縦に置いたら確実に立つ(花村作品の「たびを」という本も立つ)。

 

少し立ち読みすると、ヤクザが出てきて、コンピューターの話も出てきて、性的な場面もある。これは買いだ、と思いすぐに購入した。

 

あらすじは、、、家庭教師である鷲津兵輔が、生徒として引き受けることになった女子高生の倫子。彼女の父は、武闘派乾組組長・乾十郎だった。鷲津は、乾組という組織、十郎の「白か黒か」を徹底する生き様、そして倫子の凛とした存在に、次第に自分の所在を見いだしていく。そして・・・、といった内容である。

 

いろいろな話が盛り込まれているが読みやすい。登場人物も大変魅力的である。またいろいろな言葉に関する蘊蓄も詰まっている。僕は赤い線を引きっぱなしだった。特に哲学的な会話をする場面は、ページが真っ赤になった。

 

その中でも教育について書かれている内容は刺激的だった。少し長いが引用してみよう。

 

「子どもが直観で得たものに筋道をつけてあげる。教えるのではなく、手助けをするのだ。鷲津は教育の本質がそこにあると信じていた。」

 

 

「そもそも義務教育の本質は、官僚を頂点とする知的労働から、いまやなり手のいない最底辺の肉体労働まで、国家に奉仕する無個性な労働力を育成するための側面が濃厚だ。いまになっていくら個性尊重と騒いでも、それは義務教育と相容れるはずがない。国家が義務である定めた教育の目指すもの、あるいは本質は、突出しないための均質化であるからだ。」

 

 

「すべてを経済で割りきることを受け入れた社会体制の根本的矛盾が現在の教育には見え隠れしている。支配階級を明確に意識しづらい時代ではあるが、支配する側は経済をすべてに優先することにおいて逆説的に筋金入りのマルキストなのだ。教育とはもともとが均質化を内包した共産主義的発想である。」

 

最後の文は、なるほどなあ~、だから教職員組合があんなことになっているんだ、と妙に納得してしまった。こんなこと誰も書かないもんな。

 

とにかくそれから僕は花村萬月の本を片っ端から読んでいくことになった。「二進法の犬」は、なかなか過激な内容だが、彼の青春小説、とりわけ音楽を扱った作品も捨てがたい魅力がある(「ウエストサイドソウル西方之魂」等)。いや時代物も捨てがたい(「武蔵」等)。取り扱う内容は違えども、突き詰めると社会と個人の有り様についてとことん考える、ということじゃないかと思っている。