「お疲れ様。」
「うん。ありがとう。大体こんな感じでいつも授業をしてるよ。でも今日は充実感があったな。何言われてもいいや。どんどんダメ出ししてくれよ。」
「分かったわ。まず、一言で言うと子ども達が安心して学習に取り組めた授業だったと思うわ。」
「安心?そうかな。緊張感があったと思うけど。」
「勿論緊張感はあったわ。でもこの先生は怖い、とか正解を言わなきゃいけない、っていう風にガチガチになっていなかったわ。そうね。生徒指導の3機能が意識された授業だった。」
「チアイは何でそんな言葉を知ってるの。」
「私は、これまでに何千もの授業を見てきたのよ。それくらい知ってるわ。生徒指導の3機能。つまり、1つ目は子どもに自己決定の場を与えること。2つ目は子どもに自己存在感を与えること。3つ目は共感的人間関係を育成すること。この3つの目標に迫る授業だった。」
「すごい。」
「じゃあ、思いつくままに言うわね。まずいい意味で『俺』に『教えよう』という意識が低かったこと。子ども達の発言をとっかかりにして、子ども達が答えを発見していくように仕向けていたと思うわ。今日あなたが教えたことは『式を読む』ってことくらいかしら。それに子ども達が発言しなくても知らん顔をしている時もあった。子どもの主体性を引き出すっていうか、学習の主体は子どもにあるって事を分かってもらおうとしていた。例えば、プリント1つ配るにも、子どもから『ほしいです』って言うまで出さなかったり、課題を子どもの言葉を使って書いたりしてたじゃない。」
「そうだね。今日はまだ二時間目の授業だから、昨日のように俺の価値観を伝えようと思って授業をしたよ。」
「ハジメさんに『どう思う?』って聞いたり、マナさんに『絶対か?』って聞いたりしてたのもそういうことなのね。自分の意志を明確に持たせようとしていた。ハジメさんをリーダーとして育てようとしていたでしょ?マナさんには、聞いているだけじゃなくて自分も発信していかなきゃだめだよって伝えようとしていたでしょ?」
「うん。細かいところまでよく見ていたな。俺、授業はみんなを『巻き込む』ことを目標にしているんだ。授業中は、『分かる子』『分からない子』『分かりそうだけどまだはっきりとは分からない子』など、色々な子が混在してるでしょ。そんな状態の子を昨日も言ったけど、『・・・たい』っていう気持ちになるように仕向けたいんだ。だから分かるか分からないかの挙手にしても全員が挙手することを求めるし、発言するときの語尾にしても気をつけているよ。マナにとってはきつかったかもしれないけれど。」
「そうね。油断している子、『お客さん』になっている子は一人もいなかったわね。子ども達の発言を価値付けることもしていたわ。マナさんが途中まで言った時も途中まで言えたことを認めていたし、スズカさんが、区切って説明した時も分かりやすいねって言っていたわね。」
「そうだね。子ども達に聞く力をつけろって要求した以上、俺が一番の聞き手にならなければいけないと思っているんだ。これは昨日言ったか。発言を聞いて価値付けることは、習慣になってるかもしれない。」
「だから子ども達も安心して発言できたんだと思うわ。その結果、授業の後半は、子ども達が授業を『創って』いる場面があったわ。発言をつなげたり、続けたりしてね。話し合ってマナさんとシンヤさんに発言させたのもあの子達なりの厳しさ・優しさだったわね。」
「うん。あれはびっくりしたな。子ども達がみんなで高まろうっていう意志を感じたな。」